【デジタル製品ヒットの理由】見せるテク必要「デジタルサイネージ・3」

トレインチャンネルが成功例

10.7

 電子ディスプレーに広告や告知などを表示する「デジタルサイネージ」(電子看板)の市場は「2015年に1兆円規模になる」(中村伊知哉・慶大メディアデザイン研究科教授)とも予測されている。その巨大市場をめぐり、ハードやソフトの各企業や広告会社、メディアなどはこぞって取り組みを強化しているが、中でも「成功事例」と言われるのがJR東日本の車内メディア「トレインチャンネル」だ。

 「トレインチャンネル」という名称になじみの薄い人もいるだろうが、首都圏の人なら、山手線や中央線のドアの上部分にある2面の液晶モニターのこと、といえばお分かりだろう。右側のモニターは停車駅の案内や目的地までの時間などの運行状況、左側には広告やニュース、天気予報などが表示されている。

 トレインチャンネルは2002年からJR東日本の山手線車両に導入された。当初は山手線52編成のうち3編成だけだったが、その後2年で全編成に採用された。06年からは中央線57編成に、07年からは京浜東北線83編成にも導入されて、現在は合計192編成の車両に1万6192面のモニターが付いている。

 流されるコンテンツは伝達方法の進化とともに変わってきた。立ち上げからかかわってきたジェイアール東日本企画交通媒体本部媒体開発部の山本孝部長は次のように語る。

 「最初は車庫でデータを積み込んでいたのでリアルタイムの情報発信はできませんでした。2004年秋にバージョンアップし、サーバーから駅まで有線でデータを送信し、駅から電車へは無線で流しています。ホームの端にアンテナを設置して、停車中に新しい情報を上書きするという方法です。これにより、ニュースや天気予報、運行状況などリアルタイムの情報を流せるようになりました」

 左側のモニターには15秒の動画CMやニュース、天気予報などの文字情報のほか、任天堂提供のビジネスマナークイズ「大人の60秒講座」などのオリジナルコンテンツも流されている。すべての線で同じコンテンツを流しているのではなく、山手線のニュースは静止画だが、中央線と京浜線では動画というように路線によって変えている。

 「路線や車内の位置によってお客さまの見方も違うので、まだ試行錯誤しています。トレインチャンネルで従来の中吊り広告を見る時間が減るとも言われますが、乗客の皆さんは社内で本や雑誌、新聞を読んだり、携帯電話やゲームを操作するなど行動が多様化していますから、トレインチャンネルが紙の広告を置き換える存在だとは一概には言えません。注目される存在ではありますが…」(山本氏)

 たしかに注目度はピカイチだ。広告価格は紙の中吊りより高いというが、出稿は順調だというからビジネス的にも「成功事例」であることは間違いない。どうせなら車内広告のすべてを液晶パネルにしてしまえば、とも思うが、「窓の外の景色も動いているので、車内のあらゆる場所の広告が動いたら気分が落ち着かなくなる。乗り物酔いする人が出るかもしれない」と山本氏は慎重だ。

 「瞬間的に伝えたい情報ならデジタルの方が向いていると思います。一方、広告をじっくり見せたい場合はアナログ的な方法が適している気がします。車内広告のすべてがデジタル化することはないでしょう」

 いまはまだ物珍しさもあって好調なトレインチャンネルだが、広告に注目させるにはテレビやウェブの広告とは違うノウハウやテクニックが必要と山本氏は言う。次回は、同社がトレインチャンネル以外に展開しているデジタルサイネージ事業について紹介する。(松本佳代子)

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