【マンション業界の秘密】不動産業者のペースにはまるな 背景に買い手市場で販売サイドに焦り

強いのは購入側。不動産会社のペースに乗ってはいけない(写真と本文は関係ありません)

 新築マンション市場は首都圏も関西圏も停滞している。建物が完成しているのに完売できない「完成在庫」がどんどん積み上がっている危険な状態だ。

 当然ながら、各物件の販売現場には売主から「早く完売させろ」というプレッシャーがかかる。販売現場では数少ないモデルルーム訪問者に何とか買わせようと、あの手この手の営業テクニックを駆使する。

 その代表的なものが「日時の制限」である。簡単に言えば、「この住戸は次に待っている人がいるので×日までに契約するかどうか決めてください」と、短い日数での決断を迫るのだ。だいたい1週間以内が多い。

 マンションは大きな買い物だ。普通に考えれば、慎重に考えたうえで購入の可否を決めたいもの。それを1週間やそこらで決めろ、というのはどういうことなのか。

 販売側からすると、迷いだした場合は7割から8割が購入しない方に傾くという経験則がある。だから「客には迷わすな」「迷う時間を与えるな」というのが営業の大原則なのだ。それに加えて、何よりも手間ひまを掛けずに営業成績を上げたいという下心もある。

 そういう見え見えの営業テクニックにはめられているとも知らず、多くの消費者はまんまとそれに乗せられて焦り狂う。

 私は面談でマンション購入の相談を行っているが「×日までに決めなければいけないので×日までに面談してください」という焦った要望を受けることが多い。

 その物件を聞くと、すでに建物が完成して半年以上経過もしていたりする。そういう場合は、思わず苦笑してしまう。

 建物が完成したマンションは、たいていが実質的に「先着順販売」だ。買いたい人が現れればすぐに売ってしまえる状態。それなのに「次の人が待っているから×日までに決めてください」というのはおかしな話。先着順販売なのだから遠慮せずに「次の人」に売ってしまえばいいのに、どうして迷っている人に日時を限って決断を迫るのか。

 不動産業界というのは、お人よしには向かない。客の利益を優先すれば、自分の利益は得られない構造になっている。残念ながら、そういった悪習が改まる気配は皆無。

 現状、新築マンション市場は買い手市場になりつつある。多くの在庫がたまって、各デベロッパーはその処理にきゅうきゅうとしている。大手財閥系企業が売主になっていても、あからさまな値引きを行っている販売現場をよく見かける。

 特にこういう市場環境の中では、販売サイドの焦りが営業手法に色濃く反映される。かといって、購入サイドがそれに惑わされる必要はない。

 マンションを購入するための決断にパッションは不要であるばかりか、失敗の原因になりかねない。あくまでも自分や家族の幸福と、人生設計を考えながら慎重に選び、決断すべきである。

 大きな買い物であるから、決断には勇気が必要である。しかし、熟慮の上での決断なら、後悔はしないはずだ。

 ■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。

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