【人生二毛作】「難聴者は蓄音機の方が聞きやすい」に着想、元IT営業マンが『バリアフリースピーカー』発売

「公共用のスピーカーとして早く普及させたい」と語る佐藤さん

 まるで手品みたいだった。小さなオルゴールが、1枚のセルロイドの下敷きを当てただけで、ビックリするほどの音量で鳴り出す。「原理はいたってシンプルなんですが」と、サウンドファン(東京・浅草橋)代表取締役の佐藤和則さん(61)が実験して見せてくれた。

 学生時代は「学業そっちのけでドラムをたたいていた」ミュージシャン。キャバレーやライブハウスなどで演奏していたが、手首をケガして音楽の道は断念し、富士ゼロックスに就職。IT技術者としてプログラム関係の仕事に携わったが、自分の技術力に限界を感じ、営業マンに転向。その後、いくつかの外資系コンピューター会社を渡り歩き、2006年にIT系サービスのコンサルタントとして独立した。

 音のバリアフリースピーカー開発のきっかけは、ビジネススクールでの出合い。

 「そこの友人から音楽療法を手がける大学の先生を紹介され、難聴の高齢者は、通常のオーディオスピーカーよりも電気を使わない蓄音機の方が聞きやすいという話を聞いて」スピーカーへの活用を思いついた。さっそく試作機を作り、加齢性難聴の父親に聞かせたところ「非常によく聞こえる」。

 2013年に資本金100万円で会社を立ち上げ事業を始めたが、周囲の反応は冷ややかだった。6畳一間の事務所で2年間、仲間の技術者が開発を進める一方、自分は高齢者の施設を訪問し実証データを蓄積。15年10月に「ミライスピーカー」の商品名で発売に踏み切った。

 原理は蓄音機のように湾曲した振動板全体が音を発生する仕組みで、離れた場所でも音が明瞭に伝わる。画期的なスピーカーだ。価格は個人向けの『ボクシー2』が11万9800円。

 昨年、東京三菱UFJ銀行が主催するビジネスコンテストのソーシャルビジネス部門で最優秀賞を受賞。これで信頼性が高まり、月100台単位で売れるようになった。

 「高齢者施設で実証実験をやると、7、8割の方はよく聞こえると仰る。そのときのうれしそうな顔を見ると、苦労が吹っ飛びますね」

 60代から70代の技術者が活躍する「下町シニアベンチャー」の会社でもある。若いベンチャー起業家のように、あまりテンションを上げず、「淡々と事業を進めています」。

 海外進出も視野に、「音で世界中の人を幸せにしていきたい」と夢は大きく膨らむ。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県生まれ、中学卒業後、集団就職。週刊誌編集者など二十数回の転職を繰り返し、現在に至る。『平山郁夫の真実』(新講社)『死ぬのにいくらかかるか!』(祥伝社)など著書多数。