【“ブラック企業”従業員の告白】自費出版社…素人の表現欲につけこむスキ

2009.10.14

 「自分を表現したい欲求は、誰しもが持っています。そこにつけ込むスキがあるんですよ」

 出版不況下にあっても、増収増益を続ける出版社がある。それが、著者が自分の本を出すのに自らお金を出版社に支払う、いわゆる自費出版というビジネスモデルを取り入れているA社だ。そこで営業兼編集をしているのがM・Kさん(47)。見るからに誠実そのものだが、知的そうなメガネの奥の目は、“獲物”を虎視眈々と狙っていた。

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 まさに「カモがネギをしょってやってくる」ようなものです。ウチでは、営業といっても新聞やフリーペーパーに「あなたもベストセラー作家になりませんか!?」という広告を掲載するだけです。出版コードを持っているので、トーハンや日販などの「取次ぎ」という本屋さんに本を置くことのできる流通会社と契約しています。

 ですからウチは、立派な出版社。ですが、扱うのは「自費出版」の本がほとんどなんですよ。

 自費出版というのは、書店に自分の著作物が並ぶのを見たい、自分の考えや自分史を他人に知ってもらいたいという人が、お金を払ってまで本を印刷することです。あまり知られていないかもしれませんが、実は大きなニーズがあるんですよ。ほとんどの「お客さん」は、零細企業の社長や、定年退職後の初老の男性です。彼らは自分が生きてきた証しを、印刷物として世に出して問いたいという欲求が非常に強い。苦労に苦労を重ねて、たった1人の起業から社員数名の会社にまで発展させてきたという自負、肩書も名刺も無くなった元企業戦士が過去の栄光を懐かしむ気持ち。これらがウチの収入源です。

 会社が特定されるとまずいので、具体的な金額まで申し上げられませんが、1冊あたり結構な額のお金をいただきます。それを振り込んでもらってから契約を結びます。この契約書というのがポイントです。「弊社が規定する基準を満たした内容の原稿だけを出版する」。この一文を入れておけば、たとえ実際にどんなに立派な内容であっても、一切出版なんかしなくて済みます。だってそうすれば、契約金をもらって1回会うだけで、後は「う〜ん。まだまだダメですね。書き込んでいく余地がありすぎます。また1カ月後に原稿をお送りください」と言うのを繰り返すだけで、コストは一切発生しませんからね。

 まあ、今までの私の経験のなかで1回だけ、「これは大ヒットする!」と踏んで、出版した本があるんですが、ふたを開ければ全くのハズレ。ですから、もう二度とそんな愚行はしませんよ。もっとも、出版社としての実績づくりのために、地道に売れる本は他の編集者がやっていますがね。

■恵比須半蔵(えびす・はんぞう) (株)セミ・ラティスに勤務する就職アドバイザー。著書は「就職先はブラック企業」(彩図社)など