定年後の“燃え尽き症候群”を乗り切れ!

2012.01.05

 定年で会社員から素の自分に戻り一個の人間になる。セカンドライフというと甘い幻想に満ちた生活を思い浮かべがちだが、意外な落とし穴もあるから注意が必要だ。この連載ではそうしたリタイア生活の光と影を取り上げていきたい。

 定年を迎える60歳前後は心と体の曲がり角にさしかかる年代。多忙な日々から解放されて健康を取り戻せると思いきや、逆に体の不調を訴えるようになる。家庭では妻が更年期障害で苦しむ時期でもあるが、実は男性にも女性の更年期と似たような症状がある。体がだるい、夜眠れない、食欲がない、何をする気力もない−などの症状を訴える人が多く、体力的な衰えを感じているところに仕事を失う寂しさやストレスが加わって不定愁訴の症状に悩まされる。

 俗にいう定年うつといわれる病気だ。燃え尽き症候群とか廃用症候群という恐ろしい言葉もある。精神科医の世界ではこれらを総称して定年症候群(シンドローム)と呼んでいる。厄介なことに鬱病になると、ものの見方が悲観的になり、余計に落ち込んでいくという悪循環に陥って、最悪の場合は自ら命を絶ってしまう危険がある。こんな症状が出たら即、精神科か心療内科へ行ったほうがいい。

 日本は自殺大国。自殺率は十数年3万人台で推移し昨年も3万人を超えた。最近増えているのが団塊の世代。定年後に自殺するケースが多く、鬱病の高発年代なのだ。退職や熟年離婚などで配偶者や友人を失う『喪失体験』が自殺の原因のひとつとみられている。職を失うという喪失感が鬱病の引き金になるのだ。

 几帳面で律義で仕事熱心で、何事もきちんとしていないと気のすまない気配り人間はうつになりやすい。真面目な人ほどストレスを多く抱え込む傾向がある。現役のサラリーマン時代は忙しい勤務がストレスになり、定年後は逆にあり余る時間がストレスになる。定年うつが進行すると認知症になる場合もある。

 男の更年期を乗り越えハッピーリタイアメントを快適に過ごせるかどうかは、お金もさることながら体力と健康も重要なポイントだ。会社人間からの軟着陸の準備は、定年になる前から始めたほうがいい。団塊の世代は戦中派と違って、骨の髄から会社人間というわけではないから人生を楽しむことへの罪悪感はない。ただ、そのためのノウハウが不十分なだけ。

 会社という縦社会で何十年も働いて上からの指示に慣れている人は、自由になった途端に何をしていいかわからなくなる。日本には「長い物には巻かれよ」という諺があるぐらいだから、命令されること、管理されることに抵抗のない人が多い。むしろ管理されることに慣れきった人は定年後、自分が何でも判断する生活に耐えられないのだ。仕事以外にも楽しみがあり、組織から離れて自由になることを恐れない人が、結果的に“次の人生”もうまくいく。脳を健康に保つにはいい意味でいい加減になること。物事を悲観的に見るより楽観的になったほうがいいというのは常識。そのほうが人生に対して前向きになり、やる気も出てくる。

 ■おおみや・とものぶ ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。『さよなら、東大』(文芸春秋)など著書多数。

 

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