北朝鮮の金正日総書記が死去した。権力の移行期に不測の事態が生じる可能性もあり、市場は身構えている。その市場が警戒するもう一つの要素が、米国を中心としたイスラエル支援国によるイラン空爆の可能性である。イランについては、米国の無人偵察機がイランに撃墜され、米国が返還を要求しているが、イランは拒否しており、先端技術が第三国に流出しかねない事態となっている。チェイニー元副大統領は、イラン空爆を主張しているが、さらに緊迫しているのはイランの核開発問題である。
欧州危機から日本ではあまり報道されなかったが、昨年11月30日に英紙タイムズは、「イランの核施設が爆発か」と報じた。日欧米6カ国の中央銀行によるドル供給の陰に隠れて見落とされたようなものだが、在イランの英大使館が200人の暴徒に襲われ、エリザベス女王の肖像画や英国旗が焼かれる事態になった。このため英国は在イラン大使館の即時閉鎖、大使の召還を行った。
イランは表向き核の平和利用を主張している。しかし、原子力発電に利用するなら低濃縮ウランで十分だが、原爆の材料となり得る高濃縮ウランの製造に邁進(まいしん)している。かつその地下施設へ移設を進めている。イラン空爆が近いというのが市場の見方であり、石油の高騰とともに為替、株などへの影響に神経質になっている。
他方、日本はイランと歴史的に親密な関係にあり、日本の原油輸入の10%はイランからである。米オバマ大統領は12月31日、イラン中央銀行と取引のある外国金融機関に制裁を科す条項を含む米国防権限法に署名した。日本の3メガバンクなど邦銀は、イラン中央銀行と原油の輸入決済取引があり、同法に基づき早ければ60日以内に制裁対象となる可能性がある。
この点については、12月15日の永易克典全銀協会長の記者会見でも質問が出され、永易氏は次のように懸念を表明した。
「米国の規制が厳しくなるたびに、日本の事情を説明し、(イラン向け)制裁に協力するが、最低限ここまでは取引させてほしいといった申し入れを行ってきた。今回は、唯一残っていた中央銀行との取引についても、それをやったときには、アメリカの銀行との取引はできなくなるという、実質的には、どちらをとるのか、ということを判断せざるを得ない内容の法律だと理解している。日本にとって10%を占めるイランからの原油輸入を完全に止めてしまうことは、サウジアラビアなどからの輸入で代替できないことはないだろうという議論もあるものの、やはりかなりの量になるので、一度止めてしまうと、供給の安定性や価格など、いろいろな問題から日本経済への悪影響は不可避であろう」
その後、イランはペルシャ湾での軍事演習で長距離ミサイル2発を試射したほか、ホルムズ海峡の閉鎖を警告するなど欧米と鋭く対立しており、欧州連合(EU)は月内にもイラン産原油の禁輸を決める見通しである。日本政府は、イラン制裁措置から邦銀を「除外規定」の対象にするよう外交努力を行っているが、事態は予断を許さない。
■森岡英樹(もりおか・ひでき) 1957年、福岡県出身。早大卒。経済紙記者、埼玉県芸術文化振興財団常務理事などを経て2004年4月、金融ジャーナリストとして独立。
