定年後の“退屈地獄”が心身むしばむ!

2012.01.12

 現役時代は仕事に追われ自分の時間を確保するのもままならないが、定年後は一転して退屈地獄との闘いが始まる。何もすることがなく、図書館で新聞を読んだり公園でボーッと過ごす。こういうリタイアリーを“退職難民”などという。貧乏ヒマなしの私からすればうらやましい限りだが、「退屈で気が狂いそうになるよ」という定年退職者もいる。

 定年退職をきっかけにアルコール依存症になる人が増えている。たっぷり時間はできるが、何をしていいのかわからず、昼間から酒を飲み始めてしまうのだ。

 大手食品会社に勤めていた木村敏男さん(63、仮名)が語る。

 「定年になったらしばらくのんびりしたいという人が多いじゃないですか。私も半年ぐらいは女房と海外旅行に行ったり仲間とゴルフに行ったり、サラリーマン時代にはできなかった遊びを満喫してました。ところが、そういう遊びにもだんだん飽きてくると、家でボーッとする時間がだんだん長くなってきてね。仕事以外にこれといって趣味もないし、何もすることがない。つい手持ちぶさたで昼間から飲んじゃうんです。最初はちょこっとビールを飲むんですが、だんだん量が多くなって止まらなくなっちゃうんです。アルコール依存症寸前でした」

 パートだが再就職の口を見つけて、アルコール漬けの泥沼から脱却したという。

 日本の飲酒人口は約6000万人。昼間から酒浸りとなるアルコール依存症は精神疾患の一種で、病院で治療を要すると診断される人はこの10年間で1・4倍に増えたという。厚生労働省が2008年度に行った調査によると、診断基準を満たす人は81万人、そのうち治療を受けているのは約5・4%にすぎない。一説には依存症患者は300−400万人ともいわれる。妻が止めても飲み続け、しまいには食事もとらなくなり、だんだん痩せてくる。最悪の場合一日中飲み続けるようになる。物覚えが悪くなり、認知症になるケースも珍しくない。

 アルコール依存症になる人は趣味のない人が多い。何でもできる自由があると、自制がきかなくなる恐れがある。厄介なことにアルコール依存症の約3割はパチンコや競輪などのギャンブル依存症を誘発するといわれている。パチンコ屋をのぞくと、定年退職者とおぼしき中高年が昼間からチンジャラジャラと玉を弾いている。逆にギャンブル依存症から約5割がアルコール依存症を誘発する。

 アルコール依存症やギャンブル依存症は、ワーカーホリックの人ほどなりやすい。現役時代は会社に依存し、家庭に戻れば妻に依存する。常に何かに依存していて、一人の人間として自立していない。定年後は女房も相手にしてくれなくなり、さびしさを紛らわすため酒やパチンコに手を出す。一種の現実逃避だ。

 アルコール依存症もギャンブル依存症も立派な病気(という言い方も変だが)なのだから、その兆候が現れたら専門病院へ行くなり、早めに手を打った方がいい。どんな病気でも早期治療が大事であることはいまさら申し上げるまでもない。

 ■おおみや・とものぶ ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

注目情報(PR)