定年後の家庭菜園、けっこうハードだ!

2012.01.19

 定年になると家庭菜園を始める人が多い。60代の人が取り組む娯楽・趣味の一番人気は「園芸、庭いじり、ガーデニング」。しかし、気が向いたときだけ畑に行って、ちょこちょこと土を耕し種をまき苗を植えれば、あとは収穫を待つだけ。簡単に自給自足、晴耕雨読の生活が実現できると思ったら大間違いだ。

 自分たちが食べる野菜だから、もちろん無農薬で除草剤などは使わない。当然草が生えるから草取りをしなければならないが、これが大変な難行苦行なのだ。家庭菜園歴20年、知人の経済ジャーナリストT氏(63)が言う。

 「草は取っても取っても出てくる。これが一番大変です。やってらんねーやと思います。夏草なんてすぐ伸びちゃうから、しょっちゅう取らないとダメなんだよ。暑い日中を避けて、朝の涼しいうちに作業をやってしまわけないといけない。真夏のクソ暑いときに朝早く起きて草取りなんてできますか。年寄りの趣味とバカにしちゃいけない。石の上にも3年じゃないけど、隣近所におすそ分けできる野菜が作れるようになるには、最低3年はかかります」

 家庭菜園を始めて1年目、初めて白菜を作ったときのこと。売り物になるのではないかと思えるほど見事に成長し、うれしくてたまらなかった。野菜作りなんて簡単じゃないかと思った。

 ところが、何気なく外葉を開いてみた。その瞬間思わず「ギャー」と声を挙げ、畑にへたり込んでしまった。外の葉はしっかり巻いているが、中は虫に食われてボロボロだった。薄焦げ茶色の夜盗虫がはいずり回っていた。天国から地獄に突き落とされたような気持ちだったという。悔しいことに、虫は野菜が一番おいしいときにおいしいところを食べてしまう。虫を発見すると割りばしで丹念につまみ取る。家庭菜園にこうした草取り、虫取りの二重苦が待ち受けていようとは、T氏もまったく予想してなかった。

 「ときには休暇を取ってでもやらなきゃいけないことがある。野菜休暇です。雨が降ろうが風が吹こうが、作業が遅れてたらやらなきゃいけないからね。今日は時間があるから畑へでも行ってみるかでは、種まきのタイミングを逸してしまう」

 農作業はお天気次第だから、家を留守にできるのはせいぜい一週間ぐらいで、自由気ままに海外へ遊びに行ってくるよというわけにはいかない。ときには家庭サービスを犠牲にしてでも畑仕事を優先しなければならないこともあり、家族と衝突することも覚悟しなければならない。妻にはあきれられ「帰ってこなくていい、畑に小屋を建てて住みなさい」と言われていると苦笑する。

 朝取れたばかりの新鮮な野菜がすぐに食卓にのる。最高のゼイタクだ。順調に育つ野菜を眺め、黙々と土に向かい合って農作業をすることで無心になり、ストレス解消にもなる。が、農作業はかがむことが多いため腰を痛める人が少なくない。

 T氏も慢性の腰痛持ちになってしまった。野菜作りは時間と体力を要するハードな趣味なのだ。石の上にも3年というが、1回や2回失敗してもあきらめないという強い意思を持ち、気長に取り組むことだろう。

大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

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