楽しいカラオケから“カンオケ”へ!ほどほどに

2012.01.26

 かつてカラオケは中年サラリーマンの楽しみだった。薄暗い酒場でグラスを傾け、アルコールが回ってくるとマイクを手にし、日頃の憂さを晴らすかのように好きな演歌を口ずさむ。今は、お年寄りの娯楽の中心になった。

 老人ホームを選ぶ理由にカラオケをあげる人も多く、ミラーボールが輝く本格的なカラオケルームを設置した施設もある。もちろん年を取っているからといって、部屋の中でじっとお茶をすすっている必要はなく、声を張り上げて歌うのも長生きの秘訣だ。

 全国カラオケ事業者協会の2011年度『カラオケ白書』によると、カラオケ参加人口は約4650万人。カラオケ機器の市場は20年前約4000億円程度だったが、その後も右肩上がりに拡大を続け、2010年度は約6174億円に上る。

 近所のレコード店の店主が「カラオケサロンは音楽を楽しむというより中高年の社交場です。派手なドレスとか白のスーツを着てステージで歌うことが目的。自分の歌を入れたCDを作る人もいる。もうスター気取りですよ」と話す。

 カラオケをめぐってトラブルになり、時には殺人事件にまで発展するケースもある。拳銃の所持者が多いフィリピンあたりではそうしたカラオケ殺人事件が多発している。海外旅行で夜カラオケ酒場へ行くときは注意するよう外務省が警告を発しているほどだ。

 カラオケ酒場へ行かずに自分の家で楽しむ「自宅カラオケ」もはやっている。気をつけなければいけないのは、騒音。熱中するあまりつい大声で歌ってしまう。

 昨年6月25日、名古屋市で深夜0時頃、アパートでカラオケを楽しんでいた50代の男性が別室の男に柳刃包丁で刺し殺される事件があった。被害者はしばしば夜遅くまでカラオケをするため「うるさい」と苦情を受けていたという。

 流行は新しい文化を作るが、逆に古い文化や伝統を衰退させる危険性もある。テレビの歌番組で紹介される新曲はみんな同じような感じに聞こえる。レコード店の店主が「素人がカラオケで歌いやすいように、狭い音域、ゆったりしたテンポで作られているからです。最近ヒット曲が出ないのも、ひとことで言えば飽きられてきたということ」と言う。これもカラオケの弊害か。

 定年後の趣味として否定するつもりはない。メロディーや歌詞、リズムが脳を刺激してボケ防止にもなる。だが、酒が入る場合は飲み過ぎに要注意。カラオケで盛り上がるとテンションが上がり、つい飲み過ぎてしまう。「会費3000円、飲み放題、歌い放題」の企画で客を呼ぶカラオケパブの店長が「急性アルコール依存症や心筋梗塞の発作を起こして救急車を呼ぶこともありますよ」と話す。

 歌い過ぎによる「カラオケポリープ」の患者が増えている。声帯に前ガン症状の腫瘍ができる病気。汚れた空気のなかで酒を飲んで大声を出し続けるのが原因。2週間以上ガラガラ声が続くようなら、耳鼻咽喉科へ行ったほうがいい。ストレス解消の音楽が「音が苦」にならないように、何事もほどほどが肝心だ。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

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