趣味は寸暇を惜しんでやるから面白い!

2012.02.09

 定年後の生活というとお金のことを気にする人が多いが、人はパンのみにて生くるにあらず、カネをいくらため込んでも墓場には持っていけない。それより大事なのは生きがいである。

 「おれはやりたいことがあるから退屈地獄に陥ることなんてないよ」と思っているあなた、ちょっと待っていただきたい。こんなケースがある。

 大手出版社の元編集者Aさん(64)は陶芸に凝っていて自宅に電気炉までつくり、週末は焼き物作りに励んでいた。ところが定年後、時間もたっぷりあって思う存分焼き物づくりに打ち込めるのに、あれほど熱中していた陶芸をやらなくなってしまった。どうしてかと尋ねると「これからはいつでもできると思うと、やる気が起きないんだ」という。

 現役時代はオシャレだったが身なりは構わなくなり、頭は真っ白。がっくり老け込んだように見える。「会社にいたときはモーレツに忙しくて早く定年にならないかなと思っていたんですが、いざ定年になるとね、勤めていたときのほうが仕事も趣味も充実していましたね」とさびしそうにポツリ。趣味というのは寸暇を惜しんでやるからこそ面白い。忙しいときは熱中してやったが、いつでもできる生活になると「つまんねーや」ということになる。

 人間は厄介な生き物で、まったく自由で制約がない生活より、多少制限があったほうがやる気になるものだ。ストレス解消の趣味はつかの間の余暇にやるから楽しいのであって、生きがいにはならない。仕事を辞めればその必要もなくなる。

 会社に身も心もささげてきた会社人間は、定年退職すると社会からも定年になったと感じる傾向がある。自由な生活に慣れていない。それに対して仕事より趣味に情熱を傾けていた人は、出世はできなかったかもしれないが、定年後の楽しみに関しては心配ない。さらに腕に磨きをかけるだけ。生きがいになるかどうかというのは、その趣味にどの程度はまっているかということにもよる。大げさに言えば、そのことに命をかけるというぐらいの意気込みがなければ、仕事に代わる生きがいにはならない。

 元大手自動車会社の社員で今は年金暮らしのKさん(66)が言う。

 「定年になる前は、これからおれは自由だぞ、思い切り好きな釣りに行けるぞ、と思うんだけど、それは仕事じゃないから会社に評価されるわけではないし、もちろんカネにもならない。定年後はそういう当てがないことを延々とやるわけ。だからやる気がなくなっちゃうんだ。辞めた当座はそういう落とし穴に陥りやすいんだよ」

 絵や陶芸が好きな人は個展を開くなど、できれば評価される機会を持つこと。昔とった杵柄とばかり定年後再結成したおやじバンドのギターも、人前で披露する機会があると一生懸命練習に励む。人間褒められればやる気も出てくる。ただし前回でも警告を発したが、「あわよくばプロに」などと欲をかいて悪徳業者にだまされないようくれぐれもご用心。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など二十数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

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