定年後の海外生活…退屈地獄でUターンも

2012.02.23

 前回に引き続き海外長期滞在生活の話。「定年後は物価の安い海外で」というのは、年金だけが頼りのリタイアリーだったら誰しもが考えることだ。海外に住むのは若い頃からの夢だった人もいる。海外ロングステイのサポート業者が登場し、ロングステイを実践する人たちの情報交換会なども多数生まれた。ところが、せっかく海外へ行ってもわずか2、3カ月で望郷の思いに駆られ、日本へUターンしてしまう人たちが少なくない。海外不適応症が原因だ。

 海外駐在員のときの経験を生かして定年後、海外ロングステイのサポート事業を始めたK氏が、年金生活者に人気のあるタイへ移住した夫婦のケースを話してくれた。

 「最初は楽しい生活を過ごしていたんですが、特別これをしたいという目的があったわけじゃないから、毎日ブラブラするだけで何もすることがない。3カ月後、いったん日本に戻ってきて娘や孫の顔を見たら帰るのがいやになっちゃった。ところが向こうへ行くときに日本の家を処分しちゃったので、住むところがない。またゼロからの再スタート。向こうで買った不動産は安く買いたたかれて、また日本で住むところを確保することから始めなければならなくなってしまったんです」

 子供の頃からパスポート一つで外国をあちこち歩いてきた欧米人と異なり、日本人は外国人と付き合った経験がなく、なかなか現地に溶け込めない人が多い。最初は見るものすべて珍しくて楽しいが、名所旧跡も見慣れるとだんだん飽きてくる。気がつけばまわりは日本人とは違う人ばかりで、文化や習慣も異なる国。気心の知れた友達もいない。日本の文化にどっぷり浸かって生活してきた中高年は、その国の文化や生活習慣になじめずホームシックになりやすい。

 「年を取ると頭が固くなり、異文化を受け止める柔軟性が失われている。体力も衰えている。そこら辺の問題を考慮せず、物価が安く、楽しいよ、ときれい事だけで海外ロングステイを判断するのは間違っています」とK氏。

 特にサラリーマン時代から他人に頼る癖が付き、会社では部下任せ、家では何でも妻任せで自立していない人は、海外へ行くと苦労する。ヒマを持て余し、退屈地獄の落とし穴にはまりやすいのだ。

 海外長期滞在生活を期間の長い海外旅行と思ったら大間違い。観光旅行は名所旧跡を次々に通過してしまうだけだが、ロングステイは一つの町に長くとどまって生活する。いかに現地にとけ込むかが最大のポイント。どんな日常を過ごすか、いかに身の安全を確保するか、緊急事態が発生したときはどう対処したらいいか、いろいろな問題が出てくる。

 それらの問題を加味した上で実行に移すべきかどうか判断しなければならない。その国の言葉や文化、習慣、法律をある程度頭にたたき込んでおくのは当然のことだが、単純に「日本より優雅な生活ができそう」「物価が安い」という理由だけで計画を立てるのではなく、海外へ行く目的は何なのか、日本を脱出する前に明確にしておくべきだ。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

注目情報(PR)