田舎暮らしは生活費安上がり…はウソ!

2012.03.01

 定年で現役を退く年代になると田舎暮らしに憧れる人が多い。東京や大阪などの大都会には大勢の人がいるから、そこから脱出して田舎に住みたいと思う人がいても不思議はない。その理由の一つに「田舎は物価が安く、生活費が安上がり」というのがある。とんでもない間違いだ。

 私事で恐縮だが、田舎へ引っ込んだらさぞかしたっぷり貯金ができるだろうと十数年前、東京の住まいを引き払って故郷に戻った。都心から電車で約2時間の小さな町。シャッター通りと化した商店街はあるが、一歩町の外へ出れば畑や田んぼが広がる。

 私と同様、数年前に東京からUターンした同級生のIが苦笑しながら言った。

 「安いのは家賃ぐらいだっぺな。東京と同じ生活をしようと思ったら東京以上にかかるよ。物価は全然変わんないね。電化製品とか日用品なんかは、東京に比べたらこっちの方が高いぐらいだよ。秋葉原の家電街とか、ディスカウントの多慶屋(たけや=東京・御徒町の有名格安店)なんかねーしさ。スーパーの食料品だって東京と変わらん。いや、ものによっては東京の方が安い。下町の商店街なんかへ行くとすげー安いんでびっくりするよ」

 確かにIの言う通り。私の銀行口座の残高はいっこうに増えない。もっとも預金が増えないのはそればかりではないが、田舎暮らしもそれなりにコストがかかる。一番大きいのが交通費。東京では車がなくても不便を感じなかったが、田舎へ引っ込んだ途端、足の確保が一番の悩みの種となった。田舎では車は一家に1台ではなく、一人に1台である。車を購入すれば、当然ガソリン代、駐車場代などの維持費がかかる。

 東京にいるときは気にもとめなかったが、田舎へ引っ込むと日本の公共交通の料金がいかに高いか、痛切に思い知らされた。私は東京へ出かけなければならないときは、時間と交通費を節約するために打ち合わせや取材などの用事をいくつかつくり、何度も出かけずに済むようにしている。それこそ北海道や沖縄の離島などにセカンドハウスを買ったりしたら、東京へ出てくるのに大変な交通費がかかる。

 冠婚葬祭などの交際費もばかにならない。田舎は血縁を中心とした顔の見える濃厚な人間関係が当たり前になっている。付き合いも家族単位だ。何かあれば知らんぷりを決め込むわけにもいかず、知人の入院や葬式があれば出かけていくことになる。たいてい病院や斎場は街から遠いところにあり、バスや電車などの交通機関がないため往復タクシーを利用することになる。この車代もばかにならない。田舎では流しのタクシーが走っていないから、タクシー会社に電話をしてきてもらう。迎えの料金が加算されるため、流しのタクシーより割高だ。

 都会には生活レベルに応じて、私のような年中金欠病に悩まされている困窮者でも暮らしていける社会的インフラが整備されている。格安のスーパー、コンビニ、喫茶店、大衆居酒屋、食堂、ディスカウント・ショップなどなど。図書館や映画館、古本屋、病院だってたくさんある。シンプル・リビング(簡素な暮らし)は都会でこそ実現できるのだ。経済的な理由だけで田舎暮らしを安易に考えない方がいい。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

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