田舎暮らしの秘訣…郷に入れば郷に従え

2012.03.08

 田舎暮らしを始めると、仕事関係とは違う組織と関わりをもつ。その一つが町内会。地方の町は高齢者が多く、町内会役員のなり手がいないので定年になると世話人を頼まれたりする。これが地域デビューになることもある。

 問題なのは、「知り合いがいない田舎の方が余計な人間関係がないからいい」という理由で田舎暮らしを始める人だ。隣町で町内会の役員を務める友人が言う。

 「2年前に越してきた、東京の会社に勤めていたという例の人。団塊の世代だと思うんだけど、さっそく去年の夏祭りを手伝ってもらったんだ。そしたら、何で神社の祭礼に駆り出されなきゃならないんだ、信教の自由に反するとか理屈をこね回すんだよ。町内会のやることにいちいちケチを付けて、東京ではこうだとか、やっぱり田舎は古いよなーなんてバカにしたような言い方をする。みんなから敬遠されるようになって、集まりにも出てこなくなってしまったよ」

 団塊の世代であることを強く意識し、何かにつけて「俺たち団塊の世代はさ」と他の世代と比較した言い方をしたがるのも、この世代の特徴。日本の一極集中の社会構造は打破すべきで「いまこそ団塊の世代がふるさとに回帰し、町おこしの火付け役になるべきだ」とあおる評論家もいる。田舎暮らしをする際に、こうした都会人の傲慢な意識が落とし穴になる。友人がうなずきながら言った。

 「この間、町内費を取りにいったら、どうせ酒代に消えてしまうんだろうと嫌みを言われた。年に一度の祭りぐらいは町内費で飲み食いするけど、年中飲んでいるわけではない。地域の行事にも出てこようとしないけど寂しくないのかな」

 新住民はたまに犬を連れて散歩に出る程度で、引きこもりのような生活を送っている。心なしか年齢より老けてみえる。町内費を払っているから“仲間はずれ”にはなっていないようだが、全然人と付き合おうともしないで何が面白いのだろう。

 快適な田舎暮らしは、いかに地域社会に溶け込むかどうかにかかっている。3・11の大震災で改めて注目された「地域の絆」を持ち出すまでもなく、何かあれば地域住民の助けを借りることになるのだ。「俺は隠とん生活をしたいから、面倒な近所付き合いなんてまっぴらご免」という人は、田舎暮らしはしないほうがいい。

 女性ははじめ田舎暮らしを渋っても、いったん移住すれば頭が固い男性より柔軟性があって早くとけ込む。田舎には長年のしきたりがあり、近所付き合いも欠かせない。もちろん田舎も時代にそぐわない古いしきたりや非民主的な組織運営など変えなければならない点は多々あるが、都会人の発想をそのまま持ち込むのはやめた方がいい。

 「俺たちが変えてやる」という傲慢な意識が軋轢(あつれき)を生み、逆に居心地の悪い環境をつくりあげてしまう。都会より「遅れている」古い仕組みや考え方が腹立たしいのかもしれないが、最低限“先住民”に気を使うことも必要。郷に入れば郷に従えという言葉もある。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

注目情報(PR)