団塊世代を待ち受ける厳しい再就職事情

2012.03.22

 団塊の世代が現役を退く時期を迎えた。定年後、1年更新の継続雇用制度で働いてきた人たちも一斉に退職する。いや応なしに会社からほうり出されるが、この世代はまだまだ元気。悠々自適の年金生活ができる人でも何か仕事をして世間の役に立ちたいと思っている人が多い。だが、ハローワークで希望にかなう仕事を見つけることはほぼ不可能だ。再就職の壁は高くて厚い。息子に「フリーターだけは絶対許さんぞ」と言っていた団塊世代のオヤジが、再就職できずフリーターになってしまったという笑えないケースもある。

 大手就職情報誌の会社に勤務していた知人のKさん(63)から転職の知らせが届いた。Kさんは転職相談のプロだ。手紙は、子供たちが仕事の面白さを体験しながら社会を学べるテーマパークを運営する会社に再就職したという内容だった。Kさんはキャリアカウンセラーの経験が生かせると意気込んでいた。

 ところが、わずか2カ月で退職してしまった。何があったのか。

 「女房に辞めるよと言ったら、何それってあきれられた」と苦笑する。しつこく理由を尋ねる私にちょっと言いにくそうな表情で話し始めた。

 「意気込みの空回りは、この年代になってからだと恥ずかしい。それまでの経験が生かせる仕事だからやる気満々だったんですが、設立したばかりの会社で、仕事が猛烈に忙しくて。私にはちょっとハードすぎました」

 創業間もない会社は人材不足で、Kさんのようなベテランは歓迎される。やりがいがあって給料もある程度もらえると、誰だって転職したくなる。若いスタッフとともに張り切ったが、いかんせん体力がついていかない。しかも日本初のテーマパークをオープンする準備で、目が回るような忙しさ。休日なし、帰宅は連日深夜に近かった。「まだオレは若い」と思っていたが、老いは確実に忍び寄ってきていた。

 「子供が家に帰ると私に、学校での出来事を楽しそうに話して、ね、面白いでしょうと言うんですが、全然面白くないんですよ。話を聞く余裕がなくなっていたんです。やっぱり落ち込みますよね。気分転換に家族で沖縄へ行ったんです。ヤンバルクイナで有名なやんばるの高台で海をぼーと眺めていたら、何か吹っ切れた感じになりまして、よし辞めようと」

 会社勤めは体力的に続かなかったので「自分なりのやり方でやりたい」と思って独立し、現在、キャリアカウンセリングの仕事をしている。

 定年後の再就職は職種、待遇面ばかりを気にしがちだが、体力には個人差がある。医者の不養生というわけでもないが、転職相談のプロでさえ自分のことになると判断を誤ってしまう。

 ましてや転職初心者の中高年は責任の重さと体力を正しく判断し、仕事がどの程度体の負担になるのか見極めたうえで再就職先を選択しなければいけない。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

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