“物書き”にも来る定年…人脈のメンテナンスを

2012.03.29

 定年はサラリーマンの問題で、それがない自由業は年を気にせず働けるはずだが、実はフリーランスのライターも人ごとではない。作家の嵐山光三郎氏が週刊誌のコラムで「ある先輩作家に、60になったら途端に仕事がなくなるぞ」と脅かされたという意味のことを書いていた。

 定年は物書きにもくるのだと11歳年上の作家は言っていたそうだ。出版社も世代交代が進み、若い編集者は何かとうるさいベテランより同世代のライターを起用したがる。できれば引退したいが「僕のようなフリー業者は、年金がないし、自分が食う分はいつまでも働かなければならない」(嵐山氏)のは私も同様だ。

 長年付き合っていた編集者が定年で会社を去る。あるいは年とともに偉くなり編集の現場から離れる。要するに人脈も年を取る。うかつにもこの冷厳な事実に気づいたのは、団塊世代の編集者が次々に退職するようになった数年前のことだ。

 会社員時代の人脈は再就職、独立のとき有力な武器となる。だが、自分が年を取れば仕事の関係でつながっていた取引先の担当者だって年を取っている。一足先にリタイア、あるいは他界している場合もある。

 豊富な人脈を買われて好条件で再就職できたが成果を上げられず、早々に退職を余儀なくされたという話は珍しくない。年を取れば、現場を離れて管理職に就いている場合が多い。大手家電メーカーの営業部長だったAさん(61)は取引先をたくさん持っていたのがものをいって、定年後は破格の待遇で再就職できた。

 ところが、わずか数カ月で退職を余儀なくされた。頼みの綱の人脈が全く役立たなかったのである。ある人事コンサルタントがこんなことを言っていた。

 「定年前のシニア世代には錯覚がある。オレには長いサラリーマン人生で築き上げた豊富な人脈がある。だから簡単に再就職ができるし独立もできる。自分の大学の同期はみんな偉くなっているし、かつての仕事仲間から仕事を回してもらえるだろうと。そう思っていると落とし穴にはまる。偉い人は単なる決裁者で必ずしも現場の人間ではない。本人とコンタクトが取れても、現場を離れていて、注文を出したくてもトップダウンで決めるわけにはいかない。担当者を紹介するからと、逃げられてしまう可能性がある。現場を仕切っている実務の責任者クラスにどれだけ人脈を開拓できるかということです」

 定年前から新しいことにチャレンジして、畑を耕し種をまいておく。婚活と同様、出会いの場を積極的につくり、新しい人と知り合うチャンスを求める積極性が定年後の仕事を左右する。古い知人は用事の有無に関わらず時々連絡をし仕事やポストの確認をしておくなど、人的ネットワークもメンテナンスが必要だ。

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

注目情報(PR)