退職金で“美術品”収集…贋作に注意を!

2012.06.15


骨董市はあくまで売り手とのやり取りを楽しむ場にしたい【拡大】

 退職金が入って懐が温かくなると、美術品の収集を始める人がいる。会社勤めのときはできなかったコレクションをしてみたいという気持ちが芽生えるのだろう。定年後にわかコレクターになるのも結構だが、絵画とか焼き物など美術品の収集に足を踏み入れると、贋作という怖い落とし穴が待ち受けている。

 インターネット取引市場の拡大で高額商品の絵画やブランド品は偽物が出回りやすくなっている。数年前、ナイーブ・アート(素朴画)の画家として知られる原田泰治氏の油絵の贋作がヤフー・オークションに出品されて問題になったことがある。原田氏は油絵は描かない。だから油彩画がネット市場に出てくるわけがない。岡本太郎の油絵の贋作が販売されていた事件もあった。岡本太郎も若いときの例外を除いて、油絵は描いても売らなかった。

 絵の贋作は偽物ブランドの氾濫と同じ構造だ。権威に弱い日本人の意識を利用してインチキ商売人は、巨匠の贋作を数万円で買って数十万円、ときには数百万円で転売する。どんなに高値で買ったものでも、偽物だったら市場では二束三文である。

 東京で画廊を経営する知人の画商がこんなことを言っていた。

 「外国の方は名前にこだわらず、いいものはいいものとしてお買い求めになるんですが、日本人は名前がないといいものを見ても買わずに、名前のある方を買っちゃう。こんなろくでもない愚作と業者が思っていても、名前のある方が売れる。日本人は物を見る目がないんですね。無名の作家に贋作はありません。偽物をつかまされたくなかったら、名前にまどわされず、現代の作家の新作を買うべきです。無名でも一生懸命に描いた作品は違います。絵に一生懸命さがあふれている。いいものを見ていれば、だんだん作家の気持ちがわかってくる。そうやって目を養うと真贋がある程度わかるようになってきます」

 大家の愚作や偽物に大枚をはたくぐらいなら、無名の画家の傑作をリーズナブルな値段で買った方がはるかにいい。そのなかのとびきりの傑作が名品といわれて後生に残るのだ。それが美術コレクションの醍醐味でもある。

 毎月一定額の小遣いを懐に骨董市に出かけ、その枠内で掘り出し物を探して気に入った物だけを買っているという定年退職者の骨董愛好家がいる。骨董市へ行って店主と古美術品の話をするのが楽しいのだそうだ。こういう人はまず偽物には引っかからない。おれは目利きだという、うぬぼれが強い人ほど贋作に引っかかったりする。

 贋作をつかまされたくなかったら、定年前からできるだけたくさんの美術品に接して感性を研ぎ澄まし、偽物業者をしのぐ目を養う以外にない。 

 ■大宮知信(おおみや・とものぶ) ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県出身。中学卒業後、東京下町のネジ販売会社に集団就職。その後、調理師見習い、ギター流し、週刊誌編集者など20数回の転職を繰り返し、現在に至る。政治、教育、移民、社会問題など幅広い分野を執筆。近著に『部長が中国から来たらどうしよう』(徳間書店)。

 

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