安倍内閣は11日、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を閣議決定した。国や自治体などを合わせた事業費は20・2兆円。このうち国の支出10・3兆円の半分を占める公共事業により、60万人の雇用を目指すという。
この緊急経済対策には、「失業中の若者を雇って職業訓練した企業に1人当たり月15万円支給」という施策がある。支給期間は最長2年。訓練後、正社員に採用した場合は年50万円を支給する。しかし、これで新たな雇用が生まれるとは思えない。
また、総額500億円以上かけて高速道路のサービスエリアなどに電気自動車用の充電器の設置を進めるという。しかし、夜間の価格が昼間の3分の1だから電気自動車は成り立つのだ。原発が止まっている状況では成り立たない。よしんば夜間の電力料金を低く抑えることができたとして、夜にサービスステーションまで出かけていく人がいるのだろうか。こういう事情がわかって策定したのだろうか。
さらに、省エネへの貢献度が高い工場の建設に対する補助金支給も2000億円計上しているが、基準を作っておかないと、自己申告で「省エネです」と手を挙げた会社にバラまかれる可能性が高い。しかし「省エネ」とは相対的な問題で、古い工場を新しいものに変えても省エネ、最先端のスマート工場も省エネ、ということで客観的な基準はかなり議論が分かれるところである。
全体的に、かつて自民党政権時代にやっていた“声のでかい人のアイデア先行”でバラまいていたやり方とほとんど変わらない。唯一違うのは、「iPS細胞による再生医療」に1000億円を使うことだ。
これは山中伸弥教授のノーベル賞受賞へのご祝儀だろう。iPS細胞については、日本が世界のリーダーになってほしいと思う。しかし、これは緊急経済対策とは違う。通常予算で長期的に取り組むべき課題だ。
こうした対策で本当に経済が良くなるのなら、自民党はこの20年のうちの18年も政権の座にいたのに、なぜそのときに良くならなかったのか。当時の自民党の政策とどこが違うのか、まったく見えてこない。福井俊彦元日銀総裁が認めたように、1990年代にはこのやり方で130兆円が無駄に出費されている。
この緊急経済対策の骨子は、経済政策の司令塔として新設した「日本経済再生本部」の第1回会議(8日)で決定した。会議ではほかに「産業競争力会議」などの設置も決定された。
産業競争力会議の民間メンバーには竹中平蔵慶大教授のほか、大企業の経営者ら9人が参加している。1人1人は立派な経営者だが、楽天の三木谷浩史会長兼社長や、さきコーポレーションの秋山咲恵社長のように自分で起業した人を除くと、(今必要な)無から有を生み出した人はいない。この“権威ある”メンバーの大半もまた昔の基準で選ばれている。
私もメンバーの2人と話したが、「あまり適任ではない」と本人たちも言っていた。学者は過去を、経営者は現在を考える商売である。政策は未来を考えなくてはいけない。
この産業競争力会議は「日本産業再興プラン」などの成長戦略を6月までに策定するという。こういったことも含め、自民党がやろうとしているのは、参院選がある7月にタイミング良く「期待の持てるリスト」を作ることだ。
つまり実際にやるかどうかはその後決めればいい、という考えなのだ。すべて先送りにして、国民に“権威ある人々が作った提言”を見せて期待だけさせておく。いつまで経っても、選挙対策の政治ということだ。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。




