「残業代ゼロ」構想のブラック度 日本企業では労働強化の恐れも

2014.06.05

連載:経済快説


労働時間の規制緩和が議論される産業競争力会議【拡大】

 政府の成長戦略の一環として、時間ではなく、成果に対して報酬を支払う賃金制度、端的にいって、「残業代ゼロ」の賃金制度の導入が検討されている。今回は、「年収1000万円以上」といった年収要件とともに、「労使の合意」さらに「本人の合意」を条件とすることで、残業代ゼロが強制されない体裁を取るなど、形を変えて何とか通そうとしているように見える。

 年収要件は、初めに高めに設定して高所得者だけが対象のような印象として制度を導入し、後で引き下げるのではないか、との観測もある。だが、これは導入の際の法案の細部まで見ないと分からない微妙な話だ。

 筆者は、年俸とボーナスで契約する外資系企業で働いたことがあるし、その後に国内系企業とも似た契約で働いてきたので、個人的には、勤務時間ではなくて、成果に対する評価や期待で報酬を払うのが、フェアだし、当然だろうという感覚を持っている。

 しかし、こうした年俸制のような制度は、会社側が個々の社員の「成果」や「能力」を個別に評価し、評価を納得的に社員に説明することと、さらに、社員側で条件が不満な場合には転職の選択肢が現実的にあることが、フェアに機能するための条件だ。外資系の金融機関やコンサルタント会社のような職場では、おおむね納得性がある。

 しかし、「給与テーブル」のようなもので社員の給料を決める大ざっぱで横着な経営者・管理者と、転職の機会も経験も乏しい社員が多数集う日本企業で、「残業代ゼロというオプションがある」という条件を与えた場合、賃金を増やさない労働強化に偏って影響が表れる「ブラック効果」が大きいように思われる。

 まず、企業の出世コースの一部に組み込まれている大企業の組合幹部は、労使合意にあって簡単に組合員を売り渡すだろう。

 また、個々の社員に対する合意手続きにあって、会社側の意向に逆らうことのできる社員は多くないはずだ。経営・上司の側には人事評価権があり、その裁量範囲は大きくかつ曖昧だ。本制度の選択または不選択が、昇進その他の処遇に「影響しないわけがない」。

 筆者は、こちらの方が労働者に厳しいといわれるかもしれないが、残業代ゼロよりも、「手厚い金銭補償を伴う正社員解雇ルール」の確立と、年金・退職金などの制度に含まれる転職者の不利を除去して、人材の流動化のための条件整備をすることを先に行うべきだと考えている。人材市場が流動化しないと、会社を辞めた場合に行き場がなく、社員は会社に対して十分な交渉力を持てない。

 また、中小・零細企業の社員は事実上勝手に無補償で解雇されることが多く、金銭補償の明確化は、決して労働者側の不利ばかりではない。(経済評論家・山崎元)

 

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