マイケル・ルイスの小説『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(文芸春秋)は、AI(人工知能)という怪物に投資家が翻弄される世界が描かれている。
AIを使った金融の超高速取引(HFT=High Frequency Trade)では、1000分の1秒単位で大量の株式発注とキャンセルを繰り返しながら莫大な収益をあげる。もはや人間が太刀打ちできる相手ではない。
相場のプロたちが株を買おうとすると、1000分の1秒でその動きを察知し、先に株を買う。そして1秒後に一般投資家たちが同じ株を買い始めるたとき、買った株を売り切ってしまう。
AIは取引開始時刻に稼働し、終了時まで差益を積み重ねていく。休憩も食事もしない。HFTと同時に、過去20年間の世界のニュースや政治経済・消費者の動向、気候変動など、あらゆるビッグデータを解析し、これから地球に起きる予測をもとに株式の動きを予測する。
HFTは6年前から金融先物取引市場で独り勝ちしており、損失したのはたったの1日だった。敗れたのは、近年になって同クラスのAIが登場してきたからで、人間に負けたわけではないと思う。
HFTが競合するようになると、「フラッシュ・クラッシュ」というAIによる株の一斉売り・一斉買いが起きた。株が上がりそうだと買い、下がりそうなら売ることをAIが一斉に行ったため、株式市場の揺れ幅は極端に上下して制御不能になったのだ。ダウ平均株価が数分で8%急落し、世界経済が揺らいだこともある。