経理事務員から舞の師範に 芸の伝承は損得勘定抜きで

2016.10.07

東京・町田市民ホールで開かれたチャリティーショーで「黒田節」を踊る寿美吉さん
東京・町田市民ホールで開かれたチャリティーショーで「黒田節」を踊る寿美吉さん【拡大】

 座敷舞という伝統芸をご存じか。花街の芸者がお座敷で一畳の畳を舞台に踊る日本舞踊である。翠新流・座敷舞の師範、翠新寿美吉(すいしん・すみきち)さん(本名・荻山満恵、73)は、若草色に花柄のあでやかな着物で待ち合わせ場所のJR神田駅に現れた。

 東京・八王子で生まれ育った。23歳の時に鉄工所勤務の男性と結婚。子供が中学生になったのを機に就職した材木会社は12年目に倒産。土木建設会社に再就職した。

 職務に忠実な経理ウーマンだった。たとえ社長でもいい加減な会計処理は認めなかった。

 「社長が遊びに行くから金をくれと言っても出さなかった。だから銀行と税務署には信用がありました」

 勤務は通算31年間に及ぶ。「社長に死ぬまで勤めてくれと言われていた」が、夫が透析患者になり「迷惑は掛けられない」と2012年に退職。

 座敷舞は江戸小唄・端唄に合わせて踊られる。内容はかなり色っぽい。男女の睦言を歌ったような曲もある。お堅い経理ウーマンが、なぜ座敷舞をと問いかけると「粋な文句に魅せられてはまりました、ウフフフ」

 きっかけは42歳の時、新聞に載った「かっぽれ、奴さん教えます」という3行広告。毎週土曜日、神奈川県相模原の自宅から東京・葛飾柴又の家元の家に稽古に通った。稽古は10年間続き1回も休まなかったというから、この踊りがよっぽど性に合っていたのだろう。

 退職後、地域のイベントで「奴さん」を踊ったところ、主催者から「おなかから声を出して踊るのは健康にいいので、ぜひ洋服で地域の人に教えてほしい」と声がかかり、サークル「吉の会」を結成。伝統芸能は高額の費用がかかるのが常識だが、月謝は1回500円と格安。公民館やカルチャーセンターなど6カ所で教えている。

 収入は月数万円にしかならないが、「お金じゃないの」と寿美吉さん。会社の仕事と違ってこちらは損得勘定抜き。

 「報酬はこのカルチャーです。福祉施設や地域のイベントなどで踊ると涙を流して喜んでくださる方がいる。それだけでうれしいんです」

 髪の毛は真っ黒、肌はツヤツヤ。古希を過ぎた女性には見えない。「化粧をして遠目で見れば、それなりに見栄えはするでしょ」とほほ笑む。します、します、ハイ。

■大宮知信(おおみや・とものぶ)ノンフィクション・ライター。1948年、茨城県生まれ、中学卒業後、集団就職。週刊誌編集者など二十数回の転職を繰り返し、現在に至る。『平山郁夫の真実』(新潮社)『死ぬのにいくらかかるか!』(祥伝社)など著書多数。

 

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