【ぴいぷる】元宝塚・安蘭けい、初めての女性役は「裸を見せるようで恥ずかしかった」 役者観ことごとく覆された蜷川氏との出会い

安蘭けい

 凛とした女性だ。その美しさは、彼女の心の奥にある“覚悟”からあふれてくるのだろう。

 宝塚歌劇団星組の男役トップスターだった。だが、最初から恵まれていたわけではない。宝塚音楽学校は15歳から受け続け、4度目の挑戦で合格するという苦労人だ。

 「もともとは宝塚ってピンとこなかったんです。やりたいのはこれじゃないって。でも歌って踊る仕事がしたかった。だから意地でも受かってやろうと。自分の信念は曲げたくなかったから」

 トップスターになったのは2006年、入団16年目のときだった。かなりの遅咲きだが、09年に退団するまでの3年間、女性が憧れる理想の男性像を演じ続けてきた。

 「退団後、初めて女性役をやったときは本当に恥ずかしかったですよ。だって、宝塚では本名から芸名に着替えて、さらに男の役になりきるわけです。女性の役って、その段取りが少ないわけですから、より自分に近くなってしまう。なんか裸を見せるようで、恥ずかしかったんです」

 しかし、そんな恥ずかしさも、役者としての自分の至らなさだと痛感させられたのが、演出家、蜷川幸雄氏(享年80)との出会いだった。

 11年、蜷川氏が演出する「アントニーとクレオパトラ」に出演した。そして、蜷川氏の洗礼を浴び、それまで抱いていた役者観をことごとく覆された。

 「大人になったら、なかなか泣くまで怒られることってないですよね。私も宝塚の下積み時代以来でした。自分は何でできないのかって泣きましたよ」と衝撃の体験を明かす。

 「人から蜷川さんは女性に、特に宝塚出身の人には優しいって聞いていたんです。でも最初から『あら~ん!』と怒鳴られて、話が違うぞって思いましたよ。もう百本ノック、いや千本ノックのような感じ。でも、初めてのストレートプレーだったので、ついていくしかなかった。負けず嫌いだから、たたかれるほうが頑張れるんです」

 その体験で、役者としての“覚悟”を得た。「成し遂げた達成感はありましたよ。自分のなかでひとつの自信にもなりましたね」

 11月からは、ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」に出演する。昨年10~11月に上演されて、わずか1年での再演決定だが、「こんなに早く再演とは思わなかったが、それだけ評価を得たということなんでしょうね。その分、期待されているので、心しないといけないですよね」。

 物語は、フランス革命のまっただ中、さまざまな思惑を交錯させる3人の男女を描く。安蘭は、パーシー(石丸幹二)とショーヴラン(石井一孝)の間で揺れ動くマルグリットを演じる。

 実は安蘭は、宝塚ではパーシーを演じているのだ。それだけに勝手知ったる作品とあって、「マルグリットの立場からパーシーをみると、それまでとは全然違った景色がみえるんです。今なら、また別のパーシーが演じられるかも」と意外な言葉も。

 宝塚時代には常にかっこよくて、強くて、包容力があってという男性を演じてきた。

 「でもね、実際にそんな男性がいたら、逆にひくんじゃないかな。女性の立場に戻ってみると、男性って女性より女々しいところもあると改めてわかりました。私がつくってきたのは“理想”の男性像だったというのは目からウロコでしたね」と発見もあったという。

 そう思って、改めて自分を見つめ直すと、「男の人にとっては、あまりかわいげのない女かもしれないですね。女性からみて、かわいくて面白い女性って、男性からはモテないでしょう」と思わず苦笑い。

 これから“安蘭けい”はどこにいくのか。

 「いつも思うのは、必要とされる役者になりたいということかな。具体的な目標があるわけじゃないんです。今まで、ちょっと突っ走りすぎたから、今やりたいことが見つからない。今は目の前にあることを、ひとつずつやっていくだけかな」(ペン・福田哲士 カメラ・川口良介)

 ■安蘭けい(あらん・けい) 女優。1970年10月9日生まれ、46歳。滋賀県出身。1991年、宝塚歌劇団に入団。2000年、雪組から星組に異動。06年に星組トップスターに就任。09年に退団し、女優として舞台やドラマなどで活躍中だ。

 「スカーレット・ピンパーネル」は、11月13~15日=大阪・梅田芸術劇場メインホール、11月20日~12月5日=東京・TBS赤坂ACTシアターで上演。問い合わせは梅田芸術劇場(東京(電)0570・077・039、大阪(電)06・6377・3800)。