【ぴいぷる】ジャンル超えた最高のコーディネート ジャズ作曲家・挾間美帆

挾間美帆

 新しいジャズの形が見えてくる。ニューヨーク仕込みのジャズ・コンポーザーが創造する音は、従来の枠を飛び越えて革新的。率いる“m unit”(エム・ユニット)はコンダクターを務める自身のほか、気鋭のミュージシャン13人がそろう“ジャズ室内楽団”だ。

 「ジャズにはリズム隊と管楽器のビッグバンドがありますが、私はクラシック出身なので、ヴァイオリンなどの弦楽器も入った、オーケストラになるバンドを作りたかった。それが今の形です」

 国立音大ではクラシック作曲科に進んだが、より影響を受けたのがジャズ。キャンパスでふと聴いた音に惹かれて、ビッグバンドのサークル、ニュータイド・ジャズオーケストラに入った。プロへの道が開けたのは大学3年。思わぬ人からのメールがきっかけだった。

 「突然、携帯に『山下洋輔です』ってメールが来て驚きました」

 内容は、山下のピアノ協奏曲『エクスプローラー/サドゥン・フィクション』(2008年、指揮・佐渡裕、東京フィルハーモニー交響楽団)のオーケストレーションの依頼。当初依頼した国立音大の栗山和樹教授に挾間を薦められ、連絡してきたものだった。

 「国立の大先輩の山下さんはサークルの特別顧問でしたが、それまで個人的に会話をしたことはありませんでした。携帯を両親と見ながらスパムメールじゃないの(?)って。嘘じゃなくてラッキーでしたね」

 斬新なアレンジが多大な評価を受け、10年には新たな一歩。本格的なジャズ・コンポーザーを目指し、マンハッタン音楽院大学院に進んだ。

 「アメリカにはやりたい音楽があって、(マリア・シュナイダー、ジム・マクリーニーら)大好きなコンポーザーが教えていた。教えてくれる学校を受けまくって、合格したのがマンハッタンのジャズ・コンポジション科でした。山下さんと佐渡さんに留学を応援していただいたのも大きかった」

 2年間で本場の音を吸収し、12年発表の“m unit”のファーストアルバム『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』で目指す基本形ができた。同じころ、ロックの領域にも関わった。佐渡指揮、シエナ・ウインド・オーケストラの『タルカス』。英プログレ、エマーソン・レイク&パーマーの組曲を作曲家の吉松隆が管弦楽版に編曲したものを、さらに吹奏楽版にアレンジした。

 「タルカスを聴いたのは吉松さんの東フィル版が最初で、EL&Pはあと。ピンク・フロイドやドリームシアターを聴いていたのでタルカスに驚きはなかったけど、よく作り込まれた曲だと感じました。吹奏楽でも違和感はありませんでした」

 坂本龍一らビッグネームとのコラボ、テレビ番組への多くの楽曲提供を経て、作曲家・編曲家として今やその地位は揺るぎない。今年9月の東京JAZZではデンマークラジオ・ビッグバンドに、山下、日野皓正(tp)、リー・リトナー(g)、リー・コニッツ(sax)らソリストが加わった『JAZZ100年プロジェクト』をディレクション。山下を「以前に朝練をさせられて…」とおどけさせるほど、音楽監督としても抜群の存在感だ。

 「キャリアの最初から、そうそうたるメンバーのなかで仕事を全うすることには慣れていますが、東京JAZZは準備期間もリハーサルの時間も限られていてプレッシャーはありました。本番まですべてを通していなくて…。本番後に“通すとこうなったのか”と感無量でした。朝練は、山下さんと以前に本番直前までリハしたことがいつの間にか…。“鬼バンマス”と言われて久しいです」

 現時点での集大成“m unit”では、10月27日のブルーノート東京、その4日前(23日)のブルーノート名古屋で、2枚のアルバムを中心に新曲も演奏する。特に見てもらいたいのは、ジャズの一瞬の輝きだ。

 「曲を1から10までは作りません。ジャズに重要な即興のスペースも空けていて、ソリストを誘う。ミュージシャンの個性を読んで、“この人の音のために”と最高のソロがコーディネートできるようにバランスを取ります。そこで自分の想像を超える景色が見えることもあるし、もちろんその逆もある。その場面を感じていただきたいです」

 1通のメールから始まった道のりは、「ジャズとクラシック、ロックとか、ジャンルを超えた作品を創りたい。映像も、踊りなども加わる、アートとしての音楽。40歳までにそれを目指して、今は下積みの期間だと思っています」。芸術が完成するそのときを待ちたい。(ペン・秋谷哲 カメラ・飯田英男)

 ■挾間美帆(はざま・みほ) 1986年11月13日生まれ。30歳。米ニューヨーク在住。国立音楽大学~マンハッタン音楽院大学院。96年大河ドラマ『秀吉』の音楽を聴き作曲に目覚め、大学在学中から多数の作曲&編曲作品を提供。2015年のNHKドラマ「ランチのアッコちゃん」の音楽を担当、テレビ朝日系「題名のない音楽会」などの編曲も手がける。“m_unit”を率い、12年にファーストアルバム『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』、15年にセカンド『タイム・リヴァー』を発表。14年に第24回出光音楽賞、15年にBMIチャーリー・パーカー・ジャズ作曲賞を受賞。16年に米『ダウンビート』誌の「未来を担う25人のジャズアーティスト」にアジア人で唯一選ばれた。

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