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【みるほどにハマる北野映画の神髄】監督・たけしが「菊次郎の夏」主題歌を坂本龍一に頼まなかった真相とは

★(5)

 破天荒な性格の菊次郎は、どこか憎めないエキセントリックな性格で、これまでの暴力性は鳴りを潜め、ヒューマンドラマに仕上がっている。後半で菊次郎も正男と同じ母に捨てられた過去を持っていることが分かり、母を訪ねるが声をかけられないシーンはグッとくる。

 まず、タイトルの菊次郎という名前だが、これは、ビートたけしの父親の名前である。その意味でも父親に対するオマージュといえるだろう。

 本作の音楽だが、たけしは「主題歌を坂本龍一に頼みたかったんだけど、依頼料がえらく高くてなァ。それで諦めたんだ」と周囲に漏らしている。

 だが本当は違うのだ。その年、たけしの主演で公開された映画「御法度」の大島渚監督が亡くなっている。その音楽を担当していたのが、坂本龍一だった。つまり敬愛する大島監督へ哀悼の意を表して、わざと断念したというのが真相なのだった。

 代わって白羽の矢が立ったのは久石譲氏。これにもこだわりが。

 数々の映画音楽を手がけている久石氏だが、この映画は製作が決定した段階で、すぐにたけしから、「リリカルでシンプルなピアノをお願いしたい」とイメージを提示されて注文があったという。

 この「Summer」という曲は、翌年トヨタカローラのCMに使われ有名になったのでご記憶の方も多かろう。

 撮影でも計算が。子役はすぐに走りだすことを知っていたたけしは、子役の子に「あそこの店にアイスクリームを売っているから、みんなの分も買ってきてくれ」と言い含めて、思った通り走って買いに行った子供を隠し撮りして、そのままちゃっかり本編に使っている。子供の心理もよく知るたけしならではのやり方だ。

 印象的なバス停のシーンは豊橋市東七根町の豊川用水調整池の入り口にセットを作って撮影したものだが、菊次郎が落としたおにぎりを拾おうとして池に落ちる場面は、のどかすぎてつまらない田舎道なので何か変化を持たせようと、とっさに考えたらしい。(おわり、望月苑巳)

 ■菊次郎の夏

 1999年5月公開。初めてカンヌ国際映画祭にコンペ部門に正式出品された。

 〈あらすじ〉

 母は死んだと聞かされていた小学生の正男(関口雄介)は、偶然、母の写真を見つけ豊橋まで会いに行こうとする。その途中、チンピラから助けてくれたオバサン(岸本加世子)は夫・菊次郎(ビートたけし)について行けという。しかし菊次郎は競輪場で旅費も正雄の小遣いもスッてしまうが…。

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