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【中本裕己 エンタなう】根深いアメリカの病理 NYの白人下層階級生々しく描くクライム映画「グッド・タイム」

 米大統領の来日に沸くタイミングで興味深い映画が公開中だ。本年度のカンヌ映画祭コンペティション部門に選出されたクライムスリラー「グッド・タイム」。大統領選でトランプ陣営を支持したといわれる“隠れた白人下層階級”にスポットを当て、現代米国社会の裏側に迫った初めての作品といえるのではないか。

 舞台はニューヨークで最も移民が多いクイーンズ地区。コニー(ロバート・パティソン)は、心を病んだ弟(ベニー・サフディ監督兼任)と2人で銀行強盗を働くが、逃げる途中で弟だけがつかまり、投獄される。

 コニーは獄中で暴れて病院送りとなった弟を取り戻そうと、警官が監視する病室に忍び込む。ゆがんだ兄弟愛はコニーを思わぬ方向に突き動かし、物語は金を盗むことより、場当たり的な逃亡劇に重きが置かれていく。犯罪者がとる先の読めない一夜の出来事がスピーディーに展開され、事件の目撃者である観客は振り落とされそうなスリルと、やるせなさを味わうことになる。

 クローズアップの多用やゲリラ撮影により、インデペンデント系映画ならではの臨場感があふれ、重低音の実験的な音楽は心臓の鼓動のように響く。クイーンズ地区で育ったサフディ兄弟が監督を務めているだけに、妙な生々しさがある。町の危うさをいたずらに煽るわけではなく、犯罪者に巻き込まれながらも、人情にあふれた住民たちへの温かい視線も心に刺さる。イギー・ポップが歌うエンディングを聞きながら、アメリカの病理は根深いなと思った。(中本裕己)

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