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【中本裕己 エンタなう】濃密な美とエロスと平和への願いが詰まった大林映画の集大成「花筐/HANAGATAMI」

 がん余命宣告を受けた大林宣彦監督による渾身の映画「花筐/HANAGATAMI」は、ページをめくる手がとまらない小説のような169分間。場面転換にクラクラする。

 太平洋戦争前夜の佐賀・唐津を舞台にした青春群像だが、軍靴の音と同等にエロスの描写が濃密だ。妖艶な未亡人の叔母(常盤貴子)が生活する唐津に移り住んだ17歳の俊彦(窪塚俊介)は新学期を迎える。美少年の鵜飼(満島真之介)や虚無僧のような吉良(長塚圭史)、お調子者の阿蘇(柄本時生)ら個性的な学友と勇気を試す冒険に熱中。一方で、肺病を病む従妹の美那(矢作穂香)や女友達のあきね(山崎紘菜)、千歳(門脇麦)とも“不良”の遊びを謳歌している。

 男と女、男と男、女と女の接吻や肌の触れあいは、ヰタ・セクスアリス風に甘酸っぱくて奔放。とりわけ、火照った気持ちを抑える常盤が、軍服姿の若い満島と情を交わす場面は官能的だ。

 42歳の長塚が学生を演じ、私生活では妻の常盤が、友人の叔母という無理のある設定には、ついニヤリとしてしまうが、大林魔術の前では見事に戯作化されている。

 たっぷり描かれる「性への執着」は、そのまま生きることへの渇望だ。男たちを翻弄する肺病の少女や、猛々しい唐津くんち祭りは刹那の美しさ。戦争が起きれば何もかも一瞬で消える。監督が初の劇場公開作「HOUSE ハウス」(1977年)より前に書き上げていた脚本を今、映画化した意味を噛みしめたい。全国で順次公開中。(中本裕己)

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