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【産経プラスコラム】マツモトクラブのマツモトコラム(1) (2/3ページ)

 楽屋に着くと、マネジャーが立ち上がり、拍手をしながら「お疲れ様!」と言った。いろいろと手伝ってくれた後輩芸人たちも、笑顔で拍手で「お疲れ様でした!」「良かったですよ!」と言った。鼻の奥のじわじわが急激に目に伝わり、デカイ一粒がこぼれ落ちそうになった。もしかすると、こぼれ落ちていたかもしれない。

 R-1ぐらんぷりという3カ月にわたる長い戦いが終わった今、目に映る人たちすべてから温かい何かを感じてしまい、誰も視界に入らないように下を向き、忙しいフリをしながら衣装を脱ぎ、涙を見せないように帰り支度をしていた。

 「この傘、どうしますか?」

 予選の間からずっとそばで手伝ってくれた(ふみつけ大将軍の)小仲君が言った。小道具で使っていた傘だ。僕は、もしかしたらほおを伝っているかもしれない涙を見られないように、小仲君の顔を見もせずに「あげるよ」と言った。

 「…ありがとうございます! マツクラさんをR-1の決勝まで導いてくれたスゴイ傘なので、M-1の予選の時持っていきます!」

 …いちいち涙を加速させやがる…。若ハゲ漫才師め。

 帰り支度を整え、たばこに火をつけた。ルシファーさんが隣に来て、ルシファーさんもたばこに火をつけた。しばらく無言のまま、お互いにただ、ため息エキスがたっぷり入った煙を吐いていた。

 やがて「いやぁ、危なかったです」とルシファーさんが言った。

 「何がですか?」 僕が言う。

 「僕、ちょっと気ぃ抜いたら泣いてしまいそうでした」と言ったルシファーさんの目に涙が溜まっているように見えて、すぐにその変な顔から視線をそらした。

 「びーちぶ、行くんですか?」

 僕の視界の外でルシファーさんが言った。

 「行きます。僕はこんな結果だったので、びーちぶのみんなからたくさんダメ出しされちゃいそうですけど、みんな待ってくれてるんで。ルシファーさんも一緒に行きますか?」

 びーちぶとは、僕が所属する事務所の持ち小屋で、その劇場で、同じ事務所の先輩や後輩たちが待っている。バイきんぐさんがキングオブコントで優勝した時も、去年のR-1でハリウッドザコシショウさんが優勝した時も、だーりんずさんがキングオブコント決勝であまりふるわなかった時も、お笑いの賞レースで事務所の誰かが決勝に行くと、必ずびーちぶで、おじさん芸人たちが集まって、決勝が終わって帰ってくる芸人を待っている。優勝しようがしまいが待っている。今年の優勝はアキラ100%さん。2年連続でR-1のトロフィーがびーちぶに持ち帰られる。

 「僕も行っていいですか?」

 「もちろんです」

 僕たちは決勝の地、お台場フジテレビをあとにし、通い慣れた千川、びーちぶに向かった。優勝したアキラさんは、まだいろいろと取材が残っているので、僕とルシファーさんだけが、先にびーちぶに到着することになる。

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