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【新書のきゅうしょ】より強化する「タコツボ文化」 丸山真男著「日本の思想」(岩波新書・1961年) (1/2ページ)

 初めて丸山真男著「日本の思想」を手に取ったのは、1970年代中盤、高校生の頃だった。碩学の、高尚な書名に有難みを感じ、読了しただけで何事かを成し遂げたような気になったもの。因みに、角川文庫が森村誠一の「人間の証明」で、映画・テレビCMと連動したマス・エンタメ商法を徹底し始めるのが1977年だからその直前。「知の権威」という言葉の象徴としての文庫や新書がまだ通用した時代だった。

 今、電車などでは、若者が実利一辺倒の自己啓発書をカバーもかけずラインマーカーで線を引きつつ読んでいる。つくづく流れは変わった。そもそもかつて書店には「自己啓発書」という棚も存在しなかった。翻って10代の頃、加藤諦三などの人生論にはその趣(おもむき)があり、密かに愛読したが、誰にもそれにつき話したことはなかったからなあ。

 今回、久しぶりに同書を手に取り気づくのが、まず「字が小さい」こと。注釈など蟻が這うような細かさで、老眼の進む筆者には揺れる電車の中などでは到底読めない。しかし、覚悟を決め、机に向かい読書灯のもとでじっくりとひもとくと味わいがある。例えば、小さな活字が次のように語る。

 「思想が対決と蓄積の上に歴史的に構造化されないという『伝統』を、もっとも端的に、むしろ戯画的にあらわしているのは、日本の論争史であろう。ある時代にはなばなしく行われた論争が、共有財産となって、次の時代に受け継がれてゆくということはきわめて稀である」

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