【鴨下信一 とっておき話】歴史、日本語に魅せられ…

2009.08.25


白石加代子さん【拡大】

 74歳の今もなお現役バリバリ。フリーの演出家として活躍する鴨下信一氏。1958年にTBSへ入社し、テレビ創成期に深くかかわった。演出したドラマの時代考証から歴史の面白さを知り、ひとり朗読劇では「音」としての日本語に興味を持つようになったという。

 鴨下氏が語る。「『女たちの忠臣蔵』で橋田壽賀子さんが赤穂浪士の家で客に《茶を出す》と書いた」

 元禄時代、茶の入れ方には4種類あった。専門家によると、(1)急須を使う、(2)お寿司屋さんのように茶こしを使う、(3)土瓶に茶葉をじかに入れて煮出す、(4)布の袋に入れて煎じ出す。

 「しかし、どの方法が普通だったかはよく分かりません」

 たいていは突き詰めていくと、分からなくなるそうだが、「それじゃあドラマは作れないんですよ。どれかに決めなきゃ」。

 時代考証の先生が「判らないことはやらないでくれ」と注文をつける。仕方がない、と鴨下氏は自ら考証をやるようになった。同時に歴史が好きになっていったという。

 時間はかかるが、可能な限り調べることで、「芝居がもっともらしくなる」。今のドラマに最も欠けていることかもしれない。

 一般の人にとって、戦国時代には詳しくても、ついこの前、戦後すぐの日本のことが、ずいぶん知られなくなってきた。鴨下氏は、「自分の記憶が残っているうちに書き残しておこう」と、もう3冊の『誰も“戦後”を覚えていない』のシリーズを本にした。

 舞台女優、白石加代子(67)との朗読劇「百物語」「源氏物語」では、音にした日本語に興味が湧いた。

 「かつてアナウンサーに芸があった。上等なアナウンサーの技術? 教養だね。久米(宏)さんは上手かった。彼は日本人のしゃべり方を一挙に早くするほど影響力のあった早口アナだが、早くしゃべるとアクセントが変わる日本語の特質を知っていたから、奇妙なアクセントにならなかった。教養のたまものです」

 音が表現する部分の大きさを知った鴨下氏は、日本語の表現を深く理解してもらおうと、一般を対象としたワークショップを開いている。「孫に童話を教えたい、というお年寄りから、プロの人気俳優さんや宝塚出身の人もいます」

 テレビで一線を走り続けた鴨下氏。そこで見つけた演出以外の仕事が、元気の源になっているのは間違いない。=つづく

 

注目情報(PR)