映画評論家・双葉十三郎さん お気に入りは「ピーター・パン」

2010.02.23

 世界最長老の映画評論家だった。昨年12月12日に99歳で亡くなってから1カ月後に公にされた訃報に、多くの映画人が驚き、冥福を祈った。

 東京生まれ。会社員時代から雑誌などに映画評論を寄せ、1945年に映画評論家として独立。52年から映画雑誌「スクリーン」で約半世紀にわたって「ぼくの採点表」を連載した。盟友の淀川長治さんと日本の映画評論界を支えてきた。

 今からおよそ10年前、あるベテラン配給・宣伝マンが東京・六本木の洋画会社に勤めていたときのこと。汗をかきながら試写室に入ってきた双葉さんに「どうしたんですか?」と声をかけると、双葉さんは笑顔で「浜松町の試写室から歩いてきたんですよ」。浜松町から六本木に向かうには長い上り坂がある。まもなく90歳になろうとする双葉さんだったが、「健康のためには歩かないとね」と元気いっぱいだった。

 「今は亡き美人の女流映画評論家が、既婚者の双葉さんにお熱をあげて自宅に押しかけた。その日を察知したのかどうか、双葉さんは急に家族で温泉旅行に出かけていて、大事には至らなかった。評論家仲間で語り継がれている伝説です」と話すのは映画評論家でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟審査員も務めた小張アキコさん。

 小張さんが試写室に通い始めた20年前、すでに双葉さんは長老格だった。銀座で試写を見た後、小張さんはよく双葉さんと近くの喫茶店でお茶をしたという。

 「私がフランスによく行くと話すと、双葉さんから出てきた名前は『ニューシネマ・パラダイス』のフィリップ・ノワレ。長身だし、何となく双葉さんに似ていました。私が『ノワレは舞台にもよく出てますよ』と言うと、双葉さんははるか遠くを見つめて『いいですねえ、僕はパリまで行けないけど、あなた、よく見てきてね』と言われたんです」

 小張さんが幹事を務める「日本映画ペンクラブ」の今月発行の会報には、最長老名誉会員だった双葉さんの寄稿が掲載された。亡くなる1カ月前に事務局に届いたという。そこで双葉さんが挙げたお気に入りの作品は「ピーター・パン」だった。

 「1924年の作品です。双葉さんは中学生のころ、ご覧になったのでしょうね。シンプルに空を飛ぶ姿が良かったそうです。遠い世界への純粋な憧れ、私の目の前でノワレについて熱く語った双葉さんとつながりました。ずっと夢見る少年のままだったのですね」(萩原和也)

 

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