【私を感動させた1冊】香山リカさん 山本雅基著「山谷でホスピス始めました。」

2010.03.02


香山リカ氏【拡大】

 『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)などのベストセラーを著し、精神科医で立教大学教授の香山リカさんが感動した1冊が山本雅基著『山谷でホスピス始めました。』。新聞で著者が施設長を務めるホスピス「きぼうのいえ」の記事を読んだのがきっかけであった。

 「精神科医として世の中の弱い立場の人に接する気持ちはわかっていても、ボランティアで活動する人、医者でない人たちがどういう経緯でホスピスをつくり、運営しているかを知りたかった」と香山さんは語る。同施設は映画「おとうと」で、問題の弟が最期を迎える家のモデルとなった所であり、山田洋次監督と女優吉永小百合も施設を見学したという今や注目される場所だ。

 本の内容はクリスチャンの著者が共鳴する妻とともに多くの善意に助けられ、東京・山谷に40坪の土地を購入、ホームを建て、人生の末期を迎える障害や困難をかかえた21人を引き取り、その後の日常も描いたドキュメント。「統合失調症、アルコール依存症、心が開けない患者がいて、医者としてどうかと思う場面もあるが、スタッフの頑張りが尊い」と香山さん。

 入居者のスケッチが興味深く、バブル期に外車を乗り回した人、山谷の主のような人、元芸者が売れた昔から脱せず、唯一人不適格者としてホームを退去させられるなど。香山さんは「彼らは経済、社会的には敗残者かもしれないが、自由に生き、漂泊者のようでもある」と見る。ただ、著者を始めスタッフの献身があればこそ得られた“自由”だろう。

 香山さんは「著者夫妻はつい、資格を取ってからと思いがちなところを、すぐに行動に出る」と魅力を指摘する。死を看取るのが施設の最後の仕事。臨終を前に感謝の言葉をつぶやくかつての無法者。筆者は何度も涙したが、香山さんも「私も泣きました」とうなずいた。(文芸評論家・長野祐二)

山谷でホスピス始めました