Web連載小説(66)【ユメの行方】サングラスを外し薄ら笑いを浮かべ

2010.03.18


ユメ epi 66【拡大】

 episode 66 December 1981 [whisper]

作・桜井鉄太郎

 若林聡太は、誰もが予想の着かない行動に打って出た。なんと、こわもての古澤大樹のかたわらにつかつかと歩み寄ると、何事か耳打ちし、そして隣にいたかなり酩酊している加川渚の腕をとると、強引に幾田トキオのもとに引っ張ってきたのだ。

 抵抗するでもなく連れてこられたナギは、トキオの顔をのぞき込むようにしたかと思うと、からだをしなやかにねじるようにして身を預けてきた。

 一瞬時間が止まったかのように、店の中を静寂が支配した。

 古澤は特徴のあるサングラスを外し、薄ら笑いを浮かべながら、獲物を逃すまいとでもするようにトキオに近づいてきた。

 すぐさま身構える沖津卓也。

 聡太は何もかも分かっているかのような余裕の表情を浮かべ動じない。

 と古澤は意外なことに手を高く挙げて皆に別れを告げるように振ると、店から出ていってしまった。

 「聡太さん、奴になんて耳打ちしたの?」

 沖津が興奮覚めやらぬ様子で聡太に聞いた。

 「なあに、古澤は今、俺に逆らえない立場だからさあ、すぐさま彼女を置いてこの店から出ていくようにと、言ったのさ」

 「どんな弱み握ってんだよ、奴の」

 なんとなく気合をそがれた格好のトキオは。聡太に尋ねた。

 「古澤は、大木俊作監督が準備している例の映画の重要な役どころに、決まるかどうかの瀬戸際なのさ。そこで、監督にうまいこと言ってやるから、今夜はおとなしく帰れってささやいたんだ。あいつは俺が監督ととりわけ親密なのを知っているからね。だから抵抗せずに引き下がったんだ。たぶん、あの様子だと、ナギにそんなに入れ込んでいたわけじゃなさそうだしな」

 聡太のその言葉を聞いて、ナギはその大きな目を見開いて投げ出すように意外なことを言い始めた。<続く>

[登場人物]

幾田トキオ(28歳):The Rebel を背負って立つ音楽プロデューサー

若林聡太(30歳):世界的なアレンジャー、ミュージシャン

沖津卓也(22歳):bar blue roseのマネージャー

古澤大樹(28歳):ロック・バンド、ファルコンズのボーカリスト。実は元ヤクザ者の春田義一

加川渚(22歳):愛称ナギ。歌手志望の女子大生

      ◇

 1980年代初め、アートや文学、映像、そして音楽にポップなものが革命的に登場した。1981年に始まる日本のポップ/ロックシーンからクラブムーブメントまでの時代を実際に生きた青年、幾田トキオを主人公に描くのが、このドキュメントフィクション「ユメの行方」である。

 物語の舞台はレコード業界と芸能界、それらを結ぶ西麻布の街。トキオに絡むのは、西麻布の街を変幻自在に闊歩したミュージシャンや業界関係者たち。いずれも個性的な面々だ。

 執筆者は、来年、結成20周年を迎える音楽ユニット「Cosa Nostra(コーザ・ノストラ)」を始め、アイドルからクラブミュージック、アンダーグラウンドまでノンジャンルで手がけるミュージシャン・音楽プロデューサー。


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