【旬 People】本物の「殺陣田村」伝える唯一の人物 大山克巳

2010.07.27


大山克巳さん【拡大】

 殺陣の大御所が剣を正眼に構えると、稽古場にいっそうの緊張感が走った。「普段は休み休み動いているのに、いざ舞台となると大動脈瘤や心臓を患ったのも忘れて(役に)入り込んでしまうんです」

 素早い剣さばきは、若手の俳優が「ついていくのが精いっぱい」と音を上げるほど。9月で傘寿を迎えるとはとても思えない。

 剣の立ち回りが「殺陣」と表現されたのは1936年、新国劇の「殺陣田村」発表からだった。46年、新国劇に入団。以来、正統派の殺陣を学び、現在では殺陣の最高傑作といわれる「殺陣田村」の本物を伝える唯一の人物となった。

 ただ、名人への道は平坦ではなく、初めて客から拍手を浴びたのは「舞台で斬られたときに死に損ねて、『大根いいぞー、もう一遍死んでみろー』とヤジられたときでした」。

 師匠で大スターの辰巳柳太郎からは「君ねぇ、素質がないから今のうちに辞めたほうがいいよ」と言われたそうだ。そこから奮起して基礎を徹底的にたたき込み、無駄を一切そぎ落とした殺陣の美を追求し続けた。

 残念ながら新国劇は87年に解散に追い込まれ、「挫折感にうちひしがれていると『あなたの立ち回りは素晴らしい』と言ってくださる方がいらして。いつまでもこうしてはいられない」と、後進を指導する大山塾を創設した。

 28日、東京・国立劇場で5年に1度開かれる「演劇人祭」で弟子とともに「殺陣田村」を演じることになった。坂田藤十郎、淡島千景、水谷八重子といった超大物がそろう祭りへの参加に「声をかけていただいたのはうれしい限りです」。舞台では鋭いまなざしの“剣豪”が相好を崩した。

(久保木善浩)

 

注目情報(PR)