元米陸軍大尉が危惧 日米同盟は破棄されかねぬ

★「日米同盟崩壊」集英社・1260円

2011.03.22

連載:ブック


飯柴智亮氏【拡大】

 半世紀にわたり極東の軍事バランスを支えてきた日米安全保障条約だが、今米国は日本の現状を諦観している−。著者の元米陸軍大尉、飯柴智亮氏は「米国は破棄しかねない」と憂慮する。自ら日米合同軍事演習で自衛隊との連絡役として深くかかわり、米軍内でも情報担当将校として活躍していた。その経験に基づき、日本の防衛政策や自衛隊の矛盾を鋭く指摘した1冊となっている。(文・鎌田剛)

 −−ねじれ国会や一部議員の造反で支持率が急降下する中、今回の巨大地震の対応に注目が集まる民主党政権。米国政府は日米同盟を破棄する可能性があるとはっきり断言しているが、理由は

 「国民性の違い。自分はよく野球に例えるが、スーパースターだろうがMVP取ろうが、次の年に打てそうになければ、次の年には遠慮なく切る。ドライなんですね。そもそも日米同盟は両政府の中で温度差があるのです」

 −−近年はロシア、中国、北朝鮮の軍事的脅威が強まっている

 「極東情勢は、とりあえず強い米軍がいないと始まらない。米国知識人たちの見解として、極東情勢は多くの火種を抱えている。が、日本人はそれをあまり理解していない。状況を正確に見て、米国の意向を理解した上で政策を決めていかないと、温度差が表面化して、日米関係の軋轢が残ると思います」

 −−日米合同演習の経験から、自衛隊の矛盾の多さを指摘されている

 「日米合同指揮所演習『ヤマサクラ』は、本当に意味のないことをやっていた。われわれ米軍の指揮所演習は経済で例えると、証券取引所の立会場で取引をやっている感じだが、ヤマサクラは子供銀行券での銀行ゴッコ。『大丈夫かな、この組織は…』と思うことがありました。実在する国を敵国にしてシミュレーションするのは常識なのに、それすらしてはいけない決まりがある。だから名前も部隊の構成も変えて行わざるを得ない環境、いくらなんでもひどいなと思いました」

 −−自衛隊には実戦経験がない。それは軍隊として大きなウイークポイントに?

 「致命的ですね。実線経験を積むためには、ISAF(アフガニスタンでの国際治安支援部隊)に参加するべきでしょう。ここには大義名分があり、その下に活動できる。30カ国以上参加していて、例えば『日本が海外に侵略しだした』などという滅茶苦茶な主張はできないのですから」

 −−今回の新著を読んでほしい人は

 「まず自衛官。そして、国政にかかわる人たちですね。また、多くの国民の方にも読んでいただければ。一人一人が意識を変えていかないと、日本は駄目になると思います」

 ■「日米同盟崩壊」集英社・1260円

 全世界へにらみを利かせる米陸軍に19歳で入隊し、大尉にまで昇進した著者が、米国の本音を明かし、日米安保の危機を訴える。

 長年の同盟関係とはいえ、米政府に義理と人情は通用しない。同盟が不要と判断すれば、「安保条約を破棄するまでだ」と指摘。米軍はイラクやアフガンといった戦場で、敵の攻撃から得たデータをもとに、装備品の改良や兵士への教育が行われているという。一方で実戦経験のない自衛隊が、日米合同演習で見せた、とんでもない失態なども証言。

 その上で、自衛隊、日本の防衛政策のあるべき姿を提言する。

 ■いいしば・ともあき 1973年東京都生まれ。16歳で渡豪し、映画「ランボー」に影響を受け米兵になろうと、19歳で渡米。99年に米永住権を得て陸軍に入隊。精鋭部隊の第82空挺師団に所属し、2002年にはアフガニスタン「不朽の自由作戦」でタリバン掃討作戦に従事する。大尉まで昇進したが08年、軍用品を日本へ輸出仲介したことが法律に違反したとして除隊となる。現在はアラバマ州トロイ大学大学院にて国際問題を研究し、軍事コンサルタントとしても活躍中。37歳。

 【取材後記】 日本男児ながら米国籍を取得し、つい最近まで米陸軍の情報将校として活躍していた飯柴氏。米軍の中でもごく限られた人物にしかアクセス権限が許されない機密情報に接してきただけでなく、アフガニスタンで展開された「不朽の自由」作戦に参戦した実戦経験もある。

 そんな米軍の根幹を知り尽くした人物が、「日米同盟崩壊」に警鐘を鳴らすのは、極めて説得力がある。尖閣諸島問題で中国の軍事的プレゼンスが高まる中、日本の防衛力をどう高めるべきか、飯柴氏の提言を政治家や防衛省はしかと耳に入れるべきだろう。

 また米軍内での上官と部下の恋愛事情や、飯柴氏の軍部隊での教練や実戦経験で見たタフでリアルな米兵士の姿など、“戦記”としても読み応えのある内容になっている。

 

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