芸能デスクが見た晩年の談志さん…しわがれ声に落語への愛情

2011.11.24


2010年3月、三遊亭楽太郎の6代目円楽襲名披露パーティーで、あいさつする談志さん【拡大】

 晩年は、「死にたい」と公言してはばからなかった立川談志さん。しかし、その言葉とは裏腹に入院や休養の合間をぬって弟子の高座にお忍びで駆けつけることが、たびたびあった。滑舌が思うようにならなくても、落語への愛情がにじみ出て、何ともいえない味が、ファンの喝采を浴びていた。

 2009年12月1日、東京・銀座ブロッサム中央会館で行われた弟子、立川雲水(41)の真打ち昇進披露にもひょっこり現れた。プログラムに名前はなく、まったくのサプライズ出演だった。

 雲水は、立川流では珍しい神戸生まれの上方落語。真打ちまで20年以上かかった苦労人だけあって、かわいかったのだろう。中入り後の幕が開くと、スキンヘッドの雲水の左隣でいつまでも頭をたれたままの家元(談志さん)がいた。

 「声帯をやりまして…。あっというまにやりまして。ヨイヨイでございます。今で言うアルツハイマーです。もうこれからは、お客様には会えない。会えれば上々。最後にジョークの2つ、3つやりましょうか」

 かすれがちだが、ホールの隅まで聞こえる声で家元は絞り出す。

 「ニューヨークにきた人食い人種が言った。『どこに行ったらサンドイッチマンが食べられるんだい』」

 「お客さん、ステーキの上と並どっちにします?」「どう違うんだ」「並はよく切れるナイフがついています」

 ときどき忘れたフレーズを、隣の雲水に「これで良かったっけ?」と聞きながら、「こういうところがアルツハイマーなんだ」とポツリ。場内がどっと笑いに包まれた後、少しかしこまった。 「私たちが落語を始めたころは、人数も少なくて師匠にいきなり『火焔太鼓』を教えてくれとか言いながら、小さな箱庭みたいなところでやっていた。その中で、あいつは真打ちにしようかなんて決まっていった。あ、真打ちというのは、『本日はこれまで』という真を打つ人間です」

 「ところが、現代になり、ニセボクサーが現れるようになり、落語協会みたいに入って10日ぐらいで真打ちになるのが出てきた。いや、2〜3年ぐらいの修行か。ま、ムードも誇りもない。そんな状況を私は論理的に書いてピリオドを打った。でも、うちの弟子は大丈夫です。これからも続きます。志の輔も談春も、さっき出たあの野郎(柳家喬太郎)も」

 毒舌は、いささかも衰えてなかった。

 「三平のせがれとは、わけが違う。私はこれでさよならします」

 こう言って、いざ三三七拍子の音頭に。ところが家元は「お手を拝借」と言った後、両手を打つフリをしながらフェイントで「×」マーク。弟子たちが、かまわず客といっしょに三三七拍子。それを、「こいつらまったく」と客席にジェスチャーしながらニヤニヤと傍観。緞帳が降り始めると、こんどは家元がひとりで三三七拍子。客も笑いながらもう一度、三三七拍子をする中、お披露目の幕がおりた。

 ボケたふりやフェイントで弟子や客の反応を楽しむ風情が、何とも家元らしかった。

 その後も、昨年12月に東京・三鷹で開かれた談志一門会でスペシャルトークの予定を飛ばして、枕なしで「品川心中」を一席。この年の暮れには「芝浜」でファンを唸らせた。しわがれ声でもいい。もう一度、聴きたかった。(芸能デスク 中本裕己)

 

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