“不倫役”裕木奈江からにじみ出るエロティシズム

2012.03.02


伊勢谷友介監督【拡大】

 久々に魅入ってしまう映画に出会った。『セイジ−陸の魚−』。

 バブルの熱気が残っている時代、学生最後の夏休みに自転車旅行に出かける“僕”。たどり着いたドライブインで、不器用だが自由に生きるセイジと出会うことから始まるストーリー。

 伊勢谷友介監督の映像は非常に絵画的で深みを感じさせる。視覚的だけでなく、どのセリフもまた一編一編の詩のように心にやさしく語りかける。

 東京芸大で美術を学び、在学中にはNY大学に留学もし、さらに芸大の大学院を修了しているだけあって、その美的センスは非常にクオリティが高い。

 明と暗、シンメトリーとアンバランスなど、伊勢谷的美意識で埋め尽くされた作品は、残酷なシーンでさえも透明感を持って訴えてくる。

 役者としても評価の高い伊勢谷だが、オファーがあるにもかかわらずNHKの『白洲次郎』と大河ドラマ『龍馬伝』しかテレビドラマに出演していない。理由は、連続ドラマは監督がひとりでない場合が多いため演出に統一性がないことや、視聴率で脚本に変更が生じることが、理解できないからだとしている。

 商業主義に走りがちな日本の芸能界にいて、彼のようにぶれない芯を持った芸術家肌に、もっとスポットが当たるといい。必ずや、日本の映画界、映像界を牽引していく存在となり得るはずだ。

 この作品で久々に裕木奈江を見た。

 裕木は、1993年にドラマ『ポケベルが鳴らなくて』で緒形拳との不倫関係を演じ、社会現象を巻き起こした。

 ドラマとはいえ、全国の主婦だけでなく女性たちからバッシングされ、嫌いな女優No.1に。

 その理由の多くが、同性に対するジェラシーから。イヤな女なのになぜか男性から好かれるという役柄が多かったためでもある。

 歌手でも女優でも、人気を持続させるには女性からの嫉妬に勝てるかどうかにかかっている。

 タレントが同性から嫌われるのに理由などいらない。「気に入らないから」「何かムカつくから」

 愚にもつかないような理由だけに、それを翻すのは至難の業。そのため、気にしないで通過するのを待つのが得策。

 が、世間の噂は波状に広がる。ましてやツイッターやフェイスブックで口コミが一瞬にして広がる時代。どんなバッシングを受けてもどこ吹く風でやり過ごしている間にいい作品に出会い、力をつけることでバッシングは鎮火する。

 裕木は一時期芸能界から姿を消した。バッシングに負けたかのように見えたが、実は文化庁の在外研修生としてギリシャに1年間国費留学をするなど、着実にステップアップをしていた。

 さらにはクリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』のオーディションに参加、自力で役を獲得し、ハリウッドだけでなく世界的に活躍を見せているように、たくましく経験を積んでいる。

 今回も、さりげなくにじみ出るエロティシズムに、女性からは嫉妬を買うだろうが、嫉妬されるが勝ち。いつまでも気になるいい女でいてほしいものだ。

 ■酒井政利(さかい・まさとし) 和歌山県生まれ。立教大学卒業後、日本コロムビアを経てCBS・ソニーレコード(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)へ。プロデューサー生活50年で、ジャニーズ系・南沙織・郷ひろみ・山口百恵・キャンディーズ・矢沢永吉ら300人余をプロデュースし、売上累計約3500億円。「愛と死をみつめて」、「魅せられて」で2度の日本レコード大賞を受賞した。2005年度、音楽業界初の文化庁長官表彰受賞。

 

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