“直木賞”辻村深月、3年後の凄い作品に期待!

★辻村深月著「鍵のない夢を見る」(文藝春秋)

2012.07.29

連載:ブック


辻村深月さん【拡大】

 今月17日に行われた第147回直木賞選考会で、新直木賞作家の栄誉に輝いたのは、辻村深月(みづき)さん(32)。3回目の候補となる『鍵のない夢を見る』である。(文・竹縄昌 写真・三尾郁恵) 

 誰もが陥りそうな悪の部屋、扉には鍵などなく、誰もが扉を押し開けてしまう可能性を秘めている−選考会では、本作が短編集であることに異論が出た。しかし、これまですぐれた長編も多く、また“今の時代”を描いていることの評価が勝った。

 一方、「本当の悪が描かれていない」という厳しい意見も出たそうだが、これも、「現代は小悪の時代。やはり現実に踏み込んでいる」として、受賞を勝ち取った。

 辻村さんは、東京會舘での記者会見の冒頭、デビューした8年前、初めて編集者に会ったときのことを振り返った。

 「『前日は直木賞のパーティーでした』と言われて、『自分とはすごく違う世界の出来事を体験している人と仕事をしていくんだ』と思った」。

 時は流れて、自身もその栄光を。しかし、その影には全力投球の努力があった。

 「(これまでの候補作も)書いた当時は自分の最高傑作と思って、これ以上がんばっても飛距離を伸ばすことができない」と思ったと言う。しかし「そう思った先に小説を書き続け、さらに飛ぶことができた」。

 いつも全力投球。

 今回も持ち前の全力で取り組んだ本が候補作となり、「いつも全力でやっていると仕事相手(編集者)に思ってもらえることを誇らしく思う」とも。さらに−

 「山梨県で青春時代を送っているときに、東京で取られたデータが日本のスタンダードのようにメディアから発信されることに違和感を持っていた。そうではなくて、自分たちが地方都市で過ごすこの感覚がスタンダードでもいいのではないか」

 地方の人たちの息づかい、感覚を大切にしたいという思い。その思いがいくつかの長編を経て、そして5作の短編に凝縮、結晶化したのではないだろうか。

 会見の締めくくりで、「今回の受賞は読者に連れてきてもらったと思っています」と語った。

 「(青春時代)いろんな本を読みながら、ここに自分のことが書いてあるとか、自分のために書いてもらったという幸せな勘違いをさせてもらった。(作家になって)今日まで書いて来られたことはとても幸福なこと。今度は自分が書いた話に誰かが、『自分のため』と幸せな勘違いをしてくれたら、こんなにうれしいことはない。今回の受賞は、これからも作品を送り続けなさいということ。恩返しをして行けるような、うれしい気持ち」

 全力投球。出産も経験して、新たな境地を開いた辻村ワールドの、さらなる展開が待ち遠しい。

 「3年後に何を書いているか分からない」と本人は言うが、「3年後に、ものすごい作品を書いているかもしれない」という選考委員の言葉には強い期待が込められている。

 実は、5月25日発行の小欄で、辻村さんには受賞作となったこの本とともにご登場いただいた。受賞決定後、記者会見場の東京会館に現れた辻村さんは、いつもと変わらぬ落ち着きぶり。だがその姿は眩しく見えた。

 ■あらすじ 2009年から昨年末まで「オール読物」文春ムック「オールスイリ」「オールスイリ2012」に掲載された読み切り短篇5作品を集めた。いずれも女性が主人公。盗癖のある母を持つ友人がいた小学生時代を回想する女性、自意識過剰な行き遅れOL、学生時代の恋人が妄想系男子という女性教師、恋人に拉致される若い女性、買い物中に乳母車が消えたという若い母親。女性を主人公に、大小さまざまな事件がからむ著者渾身の好篇。

 ■辻村深月(つじむら みづき) 1980年生まれ。2004年、『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。2011年、『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を受賞。『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』が第142回直木賞候補、『オーダーメイド殺人クラブ』が第145回直木賞候補となった。また同作品は山本周五郎賞候補となったが惜しくも受賞を逃した。新著『鍵のない夢を見る』所収の「芹葉大学の夢と殺人」が、第64回日本推理作家協会賞短篇部門候補となるなど、実力は高く評価されていた。ほかにエッセイ集『ネオカル日和』など著書多数。

 

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