都会の人々描く7つの短編 西崎憲さん、音楽や短歌など多面的活動

★西崎憲箸「飛行士と東京の雨の森」筑摩書房

2012.12.29

連載:ブック


西崎憲さん【拡大】

 今年、作家デビュー10年を迎えた西崎憲さん(57)の新刊。表題に引かれて思わずジャケ買いならぬ“タイトル買い”をした。表題作をはじめ都会のどこかで起きているかもしれない物語を描いた中短編が収められている。音楽、そして短歌と幅広い活動を続ける西崎さんに作品と今後を聞いた。(文・竹縄昌、写真・瀧誠四郎)

 ──タイトルに引かれました

 「表題作は、実は本のタイトルが先にできていたんです。昨年の夏から書き始めて書き下ろしの短編が多いので結構苦しみましたが、いわば写真集と思ってくれればいいのです。7つの“写真”をどう見るか、それは自分なりに考えてもらい、感じ方は読者に任せようと思います」

 ──音楽から翻訳、そして小説へ。幅広い活動です

 「高校時代に短編小説を2作書いたことがありました。でも、以前は音楽活動をしながら文章を書いていると、二股をかけている、音楽をいい加減にやっていると思われてしまうので、小説を書いたことは言い出せなかったのです。しかし、最近はマルチにできる環境が整ってきました。パソコンやネットの普及で、一人で映画も音楽も作れる時代になったことも背景にあります。人間は多面体ですから、単一なことでは生きられないんじゃないかな。そういう人が増えてきたからだと思います」

 ──短歌も

 「翻訳家で作家の井辻朱美さんが開いた歌会を覗きに行ったのがきっかけで、自分でも作るようになりました。短歌は散文を書く上でためになっているなと思いますね。描写の練習には最高です」

 ──小説と短歌、音楽。そのバランスは

 「時間配分をしてやっていますが、生活の50%は小説です。あとは音楽や短歌。多面体としての活動を、わがままに、かつ正直にやっている印象はあります」

 ──デビューから10年です

 「スタートは幻想文学でした。が、編集者の勧めもあって、写実的な、不思議なことはあまり起きない小説を書いたのですが、それは修行になりましたね。他のジャンルも真面目にやっているのですが、短期の締め切りに追われてしまって、映像などの長期プランが実現できずにいました。年齢的にそんなに長く活動できるわけではないので、やりたいことはやらなければまずいなあと思います。そうした焦りと、今後に対する不安はありますね」

 ──これからの予定は

 「『文学界』の依頼で中編を書いています。また長編小説も2つ3つ、2年先ぐらいまでは決まっています。幻冬舎から出る予定の近未来ものは、これまでと違った作品になると思います。あとは音楽も3年先ぐらいまで仕事をいただいていて、小説と音楽の2つが中心。ふとした隙間の瞬間に着想が浮かびます。着想は書くのが追いつかないぐらいありますよ」

 ■あらすじ 巻頭は「文学界」2004年5月号掲載「理想的な月の写真」を大幅に加筆。それ以外は、書き下ろしの掌編だ。亡父が飛行士で日本人だったイギリス・ウェールズの娘が来日し、雨の東京を彷徨う表題作には、カバー絵にヒントも隠されている。

 「都市と郊外」「淋しい場所」「紐」「ソフトロック熱」は、都市生活者が生み出す人間模様が描かれる。巻末の「奴隷」は、SF的作品で、今後の作風のひとつを予感させている。

 ■にしざき けん 1955年、青森県出身。高校卒業後、職を変えながら音楽活動を開始。作曲家デビューののち、音楽レーベルを主宰。30代を前にしたころから、短歌を始め、また知人を通じて翻訳企画を実現したことから翻訳家としても活動開始。2002年、『世界の果ての庭』(新潮社)で第14回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し作家デビュー。著書に『蕃東国年代記』(新潮社)『ゆみに町ガイドブック』(河出書房新社)など。

 訳書に『ヴァージニア・ウルフ短篇集』『ヘミングウェイ短篇集』『エドガー・アラン・ポー短篇集』など。ほかに編者としてアンソロジーがある。

 趣味のフットサルはチームを持っているほど。

 

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