「等伯」で直木賞、安部龍太郎さん 仕事は“か行”志を忘れずに…

★安部龍太郎著『等伯』日本経済新聞出版社

2013.02.03

連載:ブック

 先月16日、安土桃山時代の絵師・長谷川等伯を描いた歴史小説『等伯』で見事直木賞受賞が決定した。デビューから25年、19年ぶり2度目の候補で勝ち取った栄達。ベテラン作家が語る自身の進境とは。受賞決定から7日後に聞いた。(文・竹縄 昌 写真・野村成次)

 ──受賞発表以降、お忙しかったのでは

 「各新聞社、通信社、雑誌社からエッセイの注文があって、今日まで8本を書きました。寝る前に構想を頭の中に入れておく。そうすると一晩で発酵して言葉になって出てきます。3、4枚なので、朝7時ぐらいから1時間半ぐらいで書いていました」

 ──物語は33歳の等伯が能登の七尾から京へ出て、絵仏師から絵師を志すところから始まります

 「等伯は上洛して絵仏師とは違う(人生の)旅を始めた。その始まりが33歳で七尾を出たこと。それがきっかけとなり、有名な松林図屏風というゴールにたどり着いたということなんです」

 ──ご自身を仮託されている?

 「僕も29歳のときに勤めていた役所を辞めましたから、そのときの心情と等伯が七尾を出るときの心情は重なっていると思います。先日の記者会見でも、等伯は私であると答えました」

 ──会見ではこれまで登場人物を自分の歴史解釈に引き寄せていたが、「等伯」では登場人物に寄り添っていった、と

 「その点が一番変わったところです。例えば信長は『信長公記』(江戸初期に編まれた織田信長一代記)を読んでも知識としてしか入って来ない。ところが、松林図屏風の実在自体、等伯そのものがそこにいるようなもので、僕の解釈を許さない力と存在感がある。自分を無にして向こうから入ってくるインスピレーションを受け止めるという取り組み方をする以外に、等伯は書けないと思っていました」

 ──等伯に出合ったことが作家人生を変えた?

 「そうです。彼との出合いによって作家としてワンランク上に引き揚げていただけました」

 ──デビューから20年以上という時間があってこそたどりついた

 「その通りだと思います。僕は京都に仕事場を持って11年住んでいます。京都で薮内流のお茶も習い、等伯を書くために水墨画も習いました。11年以上、京都の芸術の深さ、連綿と続いている文化力の高さにずっと触れてきました。またデビューから戦国時代を書いてきましたから、そうしたものが渾然一体となっていい形で実を結んでくれたと思います。これまで書けなくて苦しんだことはありましたが、小説を辞めようと思ったことはありません」

 ──読者もいろいろ壁にぶつかっています。メッセージを

 「料理は“さ行”と言いますが、仕事は“か行”です。“か”は、感謝。“き”は勤勉、“く”は苦行、苦難。“け”は健康、精神の健全さ。そして“こ”は志。感謝と勤勉、苦難を恐れない強い精神で苦行を歩み続けられる。自己管理して健康、健全な精神を保ち、志を忘れないことです。志を失うから世の中がつまらなくなってしまう。きちっとしていれば、助けてくれる人が現れます。等伯もそうでしたから」

 ■あらすじ 能登七尾の長谷川又四郎信春(後の等伯)は評判を取る絵仏師だったが、33歳で絵師を目指し上洛を図る。しかし、武家からの養子という出自故に陰謀や戦乱に巻き込まれるなど、艱難辛苦が待ち受ける。やがて画業は評判を得、51歳で長谷川等白(のちに等伯)と名乗るが、権勢を誇った宿敵狩野派との対立、心の師となった利久の死、それらを乗り越えながら、ついに名作松林図屏風を世に送り出す。等伯を助け、支える人々が温かく描かれ、その筆致には優しさがある。

 ■あべ・りゅうたろう 1955年、福岡県八女市生まれ。18歳で作家を志す。久留米高専卒業後に東京都大田区役所に勤務。区立図書館に配属され、司書の資格を取得。結婚して二児をもうけたが、29歳のときに退職して作家修行に専念。90年、『血の日本史』。94年、『彷徨える帝』(新潮社)で111回直木賞候補。2005年、『天馬、翔ける』で中山義秀賞受賞。他に『関ヶ原連判状』『信長燃ゆ』『生きて候』『天下布武』『恋七夜』『蒼き信長』『レオン氏郷』など多数。11年前から京都市内にも仕事場を持ち、暮らしている。

 

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