中森明菜の復活を切望 アダルトな表現者が求められる時代

2013.10.16


復帰が待たれる中森明菜【拡大】

 中森明菜が魔物と化しているようだ。

 2010年10月に体調不良による芸能活動の休止を発表して以来、姿を見せない。追えども追えども掴(つか)めないからこそ、マスコミは追い続けるのだが、相変わらず動向は見えて来ない。

 うっそうたる森で、茫漠とした何かを探しているようなものである。光の射さない森では、姿が見えないとかえってイメージばかりが異常なまでに膨らんでしまうものである。

 中森も、等身大の本人はさて置き、生きた伝説となって一人歩きし始めている。

 良くも悪くも、風評もまたスーパースター運なのだ。

 “不可解”や“謎めく”という不透明なベールに包まれていると、大衆は「どうして?」と答えを求めたくなる。

 回答がなかったり、意にそぐわない返答しかなければ、人はその不可解について、歪めたりねじ曲げたりしたくなるものだ。

 昭和の時代、希有な歌声を持ち一世を風靡した歌姫・藤圭子が亡くなったとき、死者に鞭打つがごとくの見出しが並んだのも、その心理が働いていたとみる。

 反論できない死者の尊厳さえ傷つけかねない書き方は許されることだろうか。

 本人不在と言えばもうひとり、ちあきなおみも生きた伝説で語られる。

 ちあきも中森も、完璧主義という点で似ている。

 ちあきが映画「象物語」のテーマ「風の大地の子守り唄」をレコーディングしたときのこと。

 当時、「世界シリーズ」と銘打ってエーゲ海、リオ、アフリカと3部作を作っていた中で、アフリカをちあきに歌ってもらった。

 映画のサントラ盤に収録されたこの曲をシングルカットしようとしたとき、ちあきが拒んだのだ。「自分はアルバムの中の1曲としての歌い方をしている。シングルのための歌い方をしていない」、というのがその理由。ちあきは体重も体調も声も、全てのコンディションをアルバム用の1曲に整えて、レコーディングに臨んでいたのだ。

 そのこだわりは十分に理解できたので、シングルは別の歌手が歌うことになった。

 そのこだわりで思い出すのが中森のパルコでのコンサート。オープニングはペーパースクリーンが降りたステージに中森のシルエットが浮かび上がる。次の瞬間、燃え始めたスクリーンを破って中森が登場し、歌が始まる。

 3曲目くらいだっただろうか、突然歌うのを止め「ごめんなさい、歌詞を間違えました」と中森。一瞬客席は静まり返り、何とも言えない空気感が支配する。そんな深閑とした中で、中森は何事もなかったかのように最初から歌い直した。

 ふたりの、完璧を求める果てしないまでの闘いに挑む姿勢は、酷似している。

 だからこそ、再び表舞台に立つまでの道のりは険しい。ストレス戦争を超え、自ら飛び込んだ激流を泳ぎ切ったとき、表現者として更なる深みを身に付けているはずだ。エディット・ピアフのように傷心的な声で痛切なバラードを歌い上げることができるだろう。

 社会が混沌としている今こそ、アダルトな表現者が待たれる。

 中森にもちあきにも、決して急がず、満を持して、人生の深淵を歌えるアダルトな歌手として戻ってくることを切望している。

 ■酒井政利(さかい・まさとし) 和歌山県生まれ。立教大学卒業後、日本コロムビアを経てCBS・ソニーレコード(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)へ。プロデューサー生活50年で、ジャニーズ系・南沙織・郷ひろみ・山口百恵・キャンディーズ・矢沢永吉ら300人余をプロデュースし、売上累計約3500億円。「愛と死をみつめて」、「魅せられて」で2度の日本レコード大賞を受賞した。2005年度、音楽業界初の文化庁長官表彰受賞。

 

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