おおらかで笑顔絶やさぬ大監督・大林宣彦

2014.03.06


大林宣彦【拡大】

 1977年、ぼくの初めての本、『みんな不良少年だった』が出版された。それまで雑誌で書いたさまざまな分野の有名人のインタヴューをまとめたものだ。

 菅原文太さん、原田芳雄さん、川谷拓三さん、室田日出男さんら、映画関係者が多かったせいか、その翌年だかに、『若い広場』(NHK教育)で、自主映画の元祖、大林宣彦監督を中心に、3人の若手自主映画監督のインタヴューと司会の仕事を頼まれた。『暗くなるまで待てない!』(75年)の大森一樹、『特攻任侠自衛隊』(77年)の土方鉄人、『高校大パニック』(78年)の石井聰亙(石井岳龍に改名)の各氏、大林さんも3人も、そしてぼくも、若かった。

 大林監督はすでに、1000本以上のCFを監督していた。ぼくは「CMフェスティバル」のイベントなどで、その斬新な映像と演出のファンでもあったし、話題になった16ミリで38分の『EMOTION=伝説の午後=いつか見たドラキュラ』(67年)も観ていた。

 番組は4人の監督の映像を中心に、高まる自主映画ブームと、商業映画のこれからみたいなことを聞くことで展開した。ぼくも含めた映画好きの4人に、先輩でもある大林監督は、丁寧に優しくお話をしてくれた。本当に映画が好きなんだと思った。その後、40年以上になるお付き合いのたびに、同じことを思わせられる。

 「高平さん、あなたは本当に映画が好きなんですね」

 84年に、『今夜は最高!』(日本テレビ)に出演してもらった時、収録2日目の楽屋で、監督はいつもの優しい笑顔で嬉しそうだった。

 「ぼくは、尾道の医者の倅で、ぜいたくに育てられました。2歳のとき、ブリキの映写機を逆さまにして、蒸気機関車の運転手の遊びなんかをしていました。ええ、ポパイとかのアニメを見られるやつです。6歳になると、古くなったフィルムに絵を刻んで、それを映写して喜んでいました。今思うと、アニメーションですね」

 後年のインタヴューで、監督はそう語り、同時に映画を愛する淀川長治さんがいかに素晴らしい映画評論家かを熱っぽく語ってくれた。

 「落語のいいところは人を殺さないところです」

 田端義夫さんの何かのパーティでお会いした時、立川談志師匠を紹介した。映画好きの2人はたちまち意気投合し、パーティ終了後、同じホテルのバーで、ぼくも交じって映画の話に花を咲かせた。

 「いいこと言うねェ。そう言やぁ、確かに殺しはねえもんな」

 嬉しそうに談志師匠は顔をほころばせた。これが、家元の『理由』(2004年)の出演につながるわけだ。

 監督は、ターザン役者のワイズ・ミューラーの物真似を得意としていた。ぼくの出版記念会などにいらしてもらうと、必ずそれを披露してくださった。前振りを聞いて、どんな物真似が飛び出すかと思うと、朗々とした声で「アーアーアー」の雄叫びを残し拍手喝采になる。

 監督の作品は大半見ているが、どの映画も性に合った。『異人たちの夏』(88年)を観たときは、片岡鶴太郎さんの芝居だけでなく、映画そのものにある種のショックを受け、帰宅するとたまらずにファンレターを出してしまった。

 ぼくは、偉そうに「いい映画をありがとうございます」と書いたのだが、数日して返信のおはがきが来た。温かい丁寧な方だと、頭が下がった。いつもおおらかで笑顔を絶やさない名監督に乾杯! (演出家・高平哲郎)

 ■大林宣彦(おおばやし・のぶひこ) 1938年1月9日、広島県尾道市生まれ。映画監督(映画作家)。成城大学文芸学部中退。在学中から8ミリで作品を発表。64年、新宿紀伊國屋ホール開館イベントの『60秒フィルムフェスティバル』で上映された『Complexe=微熱の玻璃あるいは悲しい饒舌ワルツに乗って 葬列の散歩道』でCMに誘われ、以後チャールズ・ブロンソンの「マンダム」はじめ数々の傑作CMを制作。『HOUSE』(77年)が初商業映画。最新作は5月17日公開予定の『野のなななのか』。

 ■たかひら・てつお 1947年1月3日東京生まれ。一橋大学社会学部卒業後、広告代理店、編集者を経てフリーに。以後、テレビの構成や芝居・ミュージカルの翻訳演出等。3月20日から24日までの『第6回沖縄映画祭』で上映される日米の喜劇映画選択等で参加。

 

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