のん“完声度”は最優秀女優賞級 アニメ映画『この世界の片隅に』

2016.11.21

郷愁を誘う柔らかいタッチの「この世界の片隅に」
郷愁を誘う柔らかいタッチの「この世界の片隅に」【拡大】

 「漫画アクション」に連載されたこうの史代の代表作をアニメ化した「この世界の片隅に」(片渕須直監督)の評判が広がっている。広島で育ったノンビリ屋の女性、すず(声・のん)が軍港のある呉の一家に嫁いで奮闘する戦時中の家族ドラマだ。

 「はだしのゲン」や「火垂るの墓」のように目を覆う悲惨な場面や意地悪な親戚が登場して陰鬱な気持ちになる映画とはアプローチが異なる。忍び寄る戦争への不安を過剰に描くことはせず、食糧事情へのグチや性格がキツめの小姑に困惑することはあっても、冗談を言って笑いとばす。他愛ない夫婦げんかもする。平常心を保とうとする健気な家族が細かく深く描かれていく。

 やがて、呉もたびたび空襲に遭うようになり、1945年8月6日、広島の方角にまぶしい閃光を見る。激しい揺れ、きのこ雲。距離を置いた場所から描く原爆が、かえって戦争体験のない観客世代の心に突き刺さる。

 あることをきっかけに、天真爛漫だったすずの顔から精気が抜ける。そして終戦後、再び笑顔を取り戻すきっかけをつかむラストシーンに圧倒され、悲しみだけじゃない涙が出た。どこまでも“日常の尊さ”を描くことで、無言のまま戦争の意味を考えさせられる。

 ほんわかとしたヒロインの雰囲気を忠実に演じたのんの演技力は高い。連続テレビ小説「あまちゃん」の舌っ足らずさや、事務所騒動によるブランクを完全に払拭。ベテラン声優陣に伍して気を吐く“最優秀女優賞”級の演技だ。 (中本裕己)

 

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