「マイケルは日本での公演を楽しみにしていたのに」
「E!ニュース」のインタビューに答えたケニー・オルテガ監督は、言葉を詰まらせた。
6月に急逝したマイケル・ジャクソンの友人で、夏に予定していたロンドン公演「This Is It」(これで最後)の準備を進めていた舞台監督のオルテガ。「マイケルは引退など考えていなかった。世界ツアーの壮大な計画を立てていたんだ」と無念さをにじませた。
今年4月から死の直前まで100余時間分の同コンサートのリハーサル風景が録画されていたのは、運命だったのか。監督はそれを2時間弱のドキュメンタリー映画「This Is It」に仕上げた。10月27日に世界17カ所でプレミア試写会が行われ、110カ国で公開。メガヒットを続けている。
映画評の第一報は、まず女優のエリザベス・テーラーのツイッターでもたらされた。「今まで見た最高の映画だった」
リズがマイケルの親友だったことを割り引くと、過大評価に思えた。しかし 「Must see movie」(絶対見るべき映画)と評論家が語るに及んで、アカデミー賞の声すら上がってきた。
公開2日目にロスの自宅近くの小さな映画館で見た。予想をはるかに超える出来。感動した。映画ではマイケルの再起をかけた真剣なリハーサル風景が、鮮明に映し出される。
熾烈なオーディションで選ばれた20歳前後の若いダンサーたちに振り付けを教える、50歳のマイケルのムチのようなしなやかな体と見事な足さばき。ダンサーたちも“神”と崇めるマイケルの期待に応えようと必死だ。プロの仕事にほとばしる緊張感。
マイケルは音楽監督に何度もダメを出す。しかし、決して声を荒らげない。あくまでささやくようなソフトボイス。そして「アイ・ラブ・ユー」「ゴッド・ブレス・ユー」と微笑むことを忘れない。本当に繊細で優しい人だったのだ。そして、名曲「ビリー・ジーン」の熱唱。泣けてくる。
フレッド・アステア以来と称されたダンサーとしての才能。最高のエンテイナーだったマイケルが見せる、実現することのなかった華麗なステージの片鱗に、失ったものの大きさを知る。
アメリカのマスコミはマイケルをバッシングし続けて来た。誤解されることも多かった。今にして思えば、肌が白かろうが、整形手術の失敗だろうが、どうでもよかったのに。
映画館では観客が、固まったまま動かないのに気づいた。完全に魅了されている。これがマイケルとの今生の別れ。一挙一動見逃すまい、としているようにも思えた。
ロスの上映会で兄ジャーメインが絶賛した。「彼の仕事を世界と分かち合うこと。これこそマイケルが望んでいたことだ」と。
この映画で直接には“死”は描かれていない。そこにあるのはマイケル・ジャクソンという、希有のアーティストの“生”への賛歌だ。(板垣眞理子)
