“たかがアカデミー賞−”。賞なんか獲らなくても、うまい役者は大勢いる。その一人ジェフ・ブリッジスは、芸歴五十余年の60歳。過去同賞に4回ノミネートされながらいまだ無冠で、“最も過小評価される俳優”といわれていた。
それが、今年は「クレイジー・ハート」でゴールデン・グローブ賞はじめ前哨戦を総ナメで、各授賞式では俳優や映画関係者が総立ちの喝采で受賞を祝福した。3月7日のアカデミー賞授賞式でも主演男優賞獲得は確実と見られ、汚名返上(?)の年となりそうだ。
映画は、元スターで今はドサ回りの落ちぶれた初老のカントリー歌手を描く。TVのトークショーでブリッジスが語ったところによると、当初脚本を読んで「音楽シーンがない」という理由で出演を断ったという。1年後にミュージシャンの友人T・ボーン・バーネットに会った時、「キミが音楽を担当するなら出てもいい」と盛り上がり、映画化が実現した。
実際にブリッジス自身が渋いノドを披露するが、これが最高に泣かせる。アルコール依存症でお腹の出た、女たらしのどうしようもない男なのだが、中年女性ならメロメロになってしまいそうな男の体臭ムンムンの魅力が一杯。自然体の演技には恐れいった。
他の主演賞候補では「ア・シングル・マン」のコリン・ファースの演技力にも脱帽。グッチ製品のデザインで知られるファッション・デザイナーのトム・フォードの初監督作品で、お馴染みの英国の名優のファースが、パートナーに死なれ絶望するゲイの大学教授役を、押さえ気味の見事な演技で魅せる。ほれぼれするほどハンサムなファース。彼のベストの作品といえる。
主演女優賞は「しあわせの隠れ場所」のサンドラ・ブロックが最有力。ジュリア・ロバーツが出演を断ったため回ってきた幸運というから、役者稼業は正にツキ。サンドラも各賞制覇中だが、ライバルは史上最多16回目のノミネートが話題の「ジュリー&ジュリア」のメリル・ストリープ。実在した米国料理界の母、ジュリア・チャイルド役はメリルだからできた名人芸で、映画関係者に熱烈ファンが多いだけに強敵といえる。
フレッシュさで目立ったのが「17歳の肖像」で高校生を演じたキャリー・マリガン。“オードリー・ヘップバーンの再来”といわれる24歳の英国の新星で、今後が期待できそう。
芸達者揃いの助演男優賞候補だが、冷酷かつユニークなナチス将校役で「イングロリアス・バスターズ」をひと際輝かせたクリストフ・ヴァルツが最右翼。助演女優賞は、「プレシャス」で娘を虐待する“史上最悪の母親”を熱演したアフリカ系のモニークで決まりかも。
本命が逃げ切るか、ドンデン返しがあるのか、結果が気になるのは、“されどアカデミー賞”だから。映画界最大のイベントであることに違いはない。(板垣眞理子)
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第82回アカデミー賞は、3月7日(日本時間8日)に発表される。
