大本命「アバター」なぜ敗北? アカデミー賞の素朴なギモン

2010.03.09


最低と最高−両方の“栄誉”を手にしたサンドラ・ブロック(ロイター)【拡大】

 今年のアカデミー賞は、SF大作「アバター」とイラクの爆弾処理兵を描いた「ハート・ロッカー」の“元夫婦監督対決”などショーアップが奏功。米国では例年よりテレビ中継の視聴率が良かったというが、日本の映画ファンが思った素朴な疑問を映画評論家の垣井道弘氏に直撃した。

 ■「アバター」はなぜ惨敗したのか

 ジェームズ・キャメロン監督(55)が長年構想を温めていた3D超大作映画は最多9部門にノミネート。とくに主要な作品、監督の両賞では本命視されていた。

 ところがフタを開けてみれば、元妻のキャスリン・ビグロー監督(58)の「ハート・ロッカー」がその2つの賞を含む6部門制覇で圧勝。これはどうしたことか。

 垣井氏は「批評家からすると予想通りの結果。というのも、『アバター』は脚本賞でノミネートすらされなかった。ということは、技術的にはすごいが内容的に弱かったということ」と話す。

 作品賞や監督賞は総合力での勝負。脚本賞を獲った「ハート・ロッカー」にはもともと大差をつけられていたのだ。

 「『アバター』に出てくるエイリアンはアメリカの先住民を連想させる。アメリカ人、とりわけ白人にとっては、あまりうれしくない歴史を焼きなおされているような気もしたのではないか」

 ■サンドラ・ブロックは演技が上手いのか、下手なのか?

 人気ハリウッド女優、サンドラ・ブロック(45)が主演女優賞で念願のオスカーを手にした。ところが前日に行われたラジー賞でも最低女優賞を受賞。芝居が上手いのか、それとも下手なのか。

 垣井氏は「実は演技部門の賞は、芝居が上手いか、下手か、で評価するんじゃない。それだったら毎年、メリル・ストリープが受賞してしまう」と苦笑。「役と作品にぴったりハマっているかどうかを見る」と解説する。

 サンドラがオスカーを獲った映画「しあわせの隠れ場所」は、富豪の妻がホームレスの黒人少年を養子にしてアメリカンフットボールの選手に育てるという話。

 「シリアス系の女優が演じると、単に高慢な嫌みの女性にしか見えない。ブロックのようにコメディーが得意な女優なら、高慢さをユーモアに変えて演じられる。そのハマりぐあいが評価されたのだろう」

 俳優は役や作品のめぐりあわせでは30点の演技しかできない場合もあるという。ラジー賞のブロックは、めぐり合わせがよくなかったということのようだ。

 ■イルカ漁告発映画の受賞は、日本バッシングか?

 日本のイルカ漁を批判した米映画「ザ・コーヴ」(ルイ・シホヨス監督)が長編ドキュメンタリー賞を受賞した。「ザ・コーヴ」は、和歌山県太地町の海に隠しカメラなどを仕掛けて漁の様子を撮影する過程を写した。同町は当然激怒。「撮影に承諾していない人が映っている」と日本で上映の動きがあるたびに文書を送り、上映しないよう働きかけている。

 こういう映画を選ぶとは、アカデミー賞選考委員会は日本に厳しいのだろうか。

 「6000人いるという選考委員全員が投票したわけではないだろう」と垣井氏は前置きしつつ、こう語る。

 「主要賞じゃないだけに、もともと過激な作品を選ぶ傾向がある。ドキュメンタリーの特質でもあるのだが、告発モノが有利。アメリカではペット的人気のイルカを日本では漁の対象にしている、という内容はアメリカ人に訴えやすい。日本たたきではないだろう」 この作品、日本では5〜6月ごろ公開予定だが、物議を醸しそうだ。

 

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