千葉市の病院で先月8日、かつて「マルサの神様」と呼ばれた元査察官が亡くなった。脱税容疑事件を調査・告発する東京国税局査察部、通称「マルサ」で20年以上にわたってブラックマネーに目を光らせ、ロッキード事件でも辣腕を振るった北島孝康氏=顔写真。76歳だった。数々の武勇伝で、故伊丹十三監督の代表作「マルサの女」の“原作者”ともいわれる。マルサの地歩を築いた男は、生涯、プロフェッショナルを貫いた。
「東京地検の力では、ロッキード事件は『首相の犯罪』にまで発展しなかった。北島さんが上げた情報のおかげ。これに限らず脱税に関して、歴代の特捜部長は誰も北島さんに頭が上がらないのではないか」
当時を知る関係者は振り返る。
昭和4年11月、長野県に生まれた北島氏は、税務大学校に入校するため上京。任意調査しか認められない税務署での勤務を経て38年、強制調査権を持つ査察部に配属された。以来、数多くの脱税事件を手がけ、62年に麻布税務署長で退官。東京・日本橋小伝馬町に事務所を開き、かつての部下たちとともに税理士として活躍したが、先月8日に心不全で死去した。
 北島氏(上)が“演出”して大ヒットした「マルサの女」 |
「酒もマージャンも好きだが、仕事にはものすごく厳しい職人。退官後のことを考え、大法人を相手にする調査部に行きたがる人間が多いなか、マルサ一筋だった」(関係者)
22年間のマルサ時代に摘発した脱税は、およそ500件。「国税では異色の存在。しっぽをつかむため、ゴミをあさるなどザラだった。それに動物的な勘というか、集まった情報から金の流れを見抜く洞察力がすごかった。その分、数字に弱い面もあったが」(同)。
そのハイライトは51年のロッキード事件。49年秋に月刊誌「文芸春秋」に掲載された立花隆氏の記事により金権体質を暴露された田中角栄首相だったが、「あれだけで逮捕は無理。北島さんが児玉(誉士夫)ルートを統括して突破口を開いた」(同)。
査察管理課長時代には、「マルサの女」の制作に協力。通帳の隠し方や言い逃れなど、査察官と脱税者の丁々発止にリアリティーを与え、大ヒットを演出した。疑いを逃れるため、女性が全裸になるシーンなど「映画のエピソードは、全部実際に北島さんが経験した話。実質的な原作者」(同)だという。
「マルサの女2」が今ひとつだったのは、北島氏が参加していなかったからとさえいわれる。
「特捜部の情報は、マルサが全部下ごしらえして持っていくんだ」と関係者は北島氏の心意気を代弁する。その薫陶を受けた“北島学校”の教え子たちが、現在の東京国税局を支えている。
ZAKZAK 2006/09/11