総務省がNHKに対し、放送法に基づき拉致問題を重点的に扱うよう命令した問題。「メディアへの介入」ばかりが論議される中、そもそも渦中のNHK国際放送は朝鮮半島では聞こえにくいという声があがっている。専門家は「編集権の問題より、まず聞こえるようにするのが先決」と、現状に疑問を投げかける。
「命令」の対象となるのは海外向け短波放送「NHKワールド・ラジオ日本」。日本語放送はアジア向けには1日19時間、朝鮮語放送(リージョナルサービス)は1日2時間50分、放送している。
日本語放送で独自番組は「海外安全情報」(5分)ぐらいで、大半は国内向けラジオ第1放送を“転送”している。朝鮮語放送は1日6回。最初の10分がニュースで、その後、ニュース解説や日本語講座というプログラムだが、1回の放送時間は30分(朝は20分)と短い。
近隣国のラジオ放送を調査、研究するアジア放送研究会の山下透理事長は「拉致問題は第1放送でかなり取り上げている。リージョナルでも特集の番組を制作し、十分に扱っている。それ以前に解決すべき問題がある」と訴える。
「これから冬場、特に夜になると朝鮮語放送は聞きづらくなる。韓国や中国東北部のリスナーからは、ほとんど聞こえないという報告が寄せられている」(山下氏)というのだ。
また、山下氏は「短波の特性を考えるならば、昼間は別の周波数を使うべき。夜間は昼に比べて送信所の出力を3分の1に抑えている時間帯がある。北朝鮮の日本向け放送は強く入るが、日本の朝鮮半島向け放送は十分な強さで電波が届いていない」と根本的な問題点を指摘する。
短波放送の電波は遠くまで届くメリットはあるが、季節や天候の影響を受けやすい。このため、北の日本語放送「朝鮮の声」は季節によって周波数を変えるほか、同時に複数の周波数を使用したり、中波を使用するなど、電力不足ながらもリスナーへの配慮は怠らない。
山下氏は「拉致被害者が現在の放送時間帯に短波放送を聞けるかどうかも疑問」とも語る。
北の生活事情に詳しい山梨学院大経営情報学部の宮塚利雄教授によると「北でラジオを入手するのは極めて難しい」と語る。「北には有線放送が軍用と民間用の2系統あり、どんな田舎でも聞こえるようになっている。海外のラジオを聞く行為は思想判断から極めて重い罪となる」。ただ、「情報を送り続ければ少しは届く可能性がある」と意義を強調する。
山下氏は「生活時間帯に隠れて聞くのは不可能。もっと早朝か深夜に放送すべき。短波よりも一般的にラジオが手に入りやすい中波で放送すればいい」と提言する。
この問題にNHK広報部は「中波放送は、国内向け放送として免許を受けている。技術的にも海外へ中波を飛ばすのは難しい」と回答。電波状況に関しては「世界各国に受信モニターを配置し、受信状況を把握しているが、ソウル近郊における6190キロヘルツ(朝鮮語放送の周波数)の受信状況は良好と認識している」と反論している。
だが、「良好」なはずの朝鮮語放送では、お便りコーナーで中国や韓国在住リスナーの「受信状態をよくしてほしい」という手紙が紹介されている。
「まっすぐ、真剣。」にはほど遠いようだ。
ZAKZAK 2006/11/20