本来、世に出る歌ではなかった。作詞作曲家の杉本眞人氏(58、写真)が、歌手・すぎもとまさととして、親不孝を詫びる気持ちを歌った「吾亦紅(われもこう)」。団塊世代を中心に歌詞への共感が広がり、約1年がかりで火がついた。
すぎもとは、歌うたびに思う。
「おふくろに“お前、最近、謝ってないだろう”って、言われているような気がしてならないんだよ」
1996年、すぎもとは母の芳子さんを78歳で亡くした。脳梗塞を患っていた夫の看病疲れも重なっての突然死。息子としての自責の念から相当の間、落ち込んだ。
2年半後。見かねた友人の作詞家・ちあき哲也氏(59)は、「お母様に捧げてください」と詞を託した。芳子さんを知るちあき氏は、秋の野に静かに咲く吾亦紅の花にたとえた。その人柄は通夜でのこんなエピソードからも伺える。
「人が途切れた夜中、ホームレスのおばさんがクシャクシャの1万円札を手に、お焼香に来られた。近くの公園で詩を売っていたとき『息子が曲を書くから』と買ってくれたときの1万円札だったそうです」(発売元のテイチク担当者)
バンド編成での歌手活動も行うすぎもとは、やがて曲をつけ「おふくろの歌なんで…」と、ライブ会場だけで歌った。
涙を流す客席を見て、「泣けてくるから、わざと違う方を見て歌ったりした」という。
昨年9月アルバムに収録、今年2月シングル発売した。初回の出荷枚数は、たったの258枚。プロデューサーは「こんなに地味な歌は、ふつうシングルにしないよ」と話していた。
宣伝費は、ほとんど無い。が、札幌のSTVラジオでは、曲を流し始めた2月ごろから半年以上もリクエストが途切れなかった。団塊の世代から「親の墓参りに行こうと思った」といったメッセージがテイチクにも届くようになった。
7月、すぎもとが「NHK歌謡コンサート」に出演すると、反響が殺到し、着うたのダウンロード数も跳ね上がった。今12万枚を超えるセールスで、秋川雅史の「千の風になって」の後を追う勢いを見せている。
すぎもとは、思う。
「不肖の息子だったからさ。今ごろ、天国でおやじとおふくろ喜んでると思うよ。この歌を歌うことが供養だね」
ゆらゆら揺れる花の穂のように、静かに聴く者の心に届くのか。
★カラオケで歌うときのコツ 「うまく歌おうとせず、両親や兄弟姉妹、恋人、友人…その人へ向けて歌ってください」(すぎもと)
ZAKZAK 2007/11/29