 横田早紀江さんが昨年末に出版したばかりの『めぐみへ 横田早紀江、母の言葉』(クリックで拡大) |
中堅出版社「草思社」(東京都文京区)が自力での経営再建を断念し、民事再生法の適用を申請した。『清貧の思想』『声に出して読みたい日本語』など、斬新な視点で数々のベストセラーを仕掛けたが、長引く出版不況で売り上げが低迷していた。同社を通じベストセラー作家となった著者からは哀惜とともに、「何とか再生していい本を出し続けて」と再出発を願う声が寄せられた。
「(民事再生法適用を申請した)9日に編集担当者から教えられるまで全然知らなくてびっくりしました」
北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの母、早紀江さん(71、写真、左上)は昨年末、草思社を通じてこれまでの集会や記者会見での発言をまとめた『めぐみへ 横田早紀江、母の言葉』を出したばかりだった。
「そんなことはおくびにも出さず。そんな大変なときに出してもらったなんて…」と困惑する。早紀江さんが1999年に同社から出版した『めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる』は、「拉致問題を許さない」との世論の潮流を作り上げた。
「初めて本を出させてもらったのも草思社でした。編集の皆さんは品格があり、大事なことは何か硬いテーマも見つめてきた出版社だったのに。何とか再生して、またいい本を出してほしい」
草思社は1968年設立。『大国の興亡』(ポール・ケネディ)や流行語ともなった『清貧の思想』(中野孝次)など、ノンフィクションを中心にヒットを飛ばした。
 ミリオンセラーとなった翻訳書『他人をほめる人、けなす人』(クリックで拡大) |
ミリオンセラーとなった『他人をほめる人、けなす人』(フランチェスコ・アルベローニ)を翻訳したイタリア・フランス文学者の大久保昭男氏は「この本は自分にとってもとても印象的な作品。意欲的な出版社で今後も期待していたので、残念でならない」と惜しむ。
160万部を売り、日本語ブームを呼んだ『声に出して読みたい日本語』の著者、斎藤孝氏=同右下=は「文化的に価値の高い書物を世に送り出すこと、他社のまねをせず、独自な企画で勝負することをモットーとした出版社だと一緒に仕事をして感じた」と指摘。「企画力があり、社会的な貢献度も高い会社がこのような事態になったことに、読書離れの深刻さを感じ不安を覚える」とコメントした。
 160万部を売り、日本語ブームを呼んだ『声に出して読みたい日本語』(クリックで拡大) |
このほかにもブームを盛り上げた本は少なくない。鉄道ファンを広げるきっかけになった『全国鉄道事情大研究』シリーズもその1つ。著者の川島令三氏は「初めて出したときは、原宿の貸しアパートにオフィスがあった小さな出版社でした。私を育ててくれた出版社と言っていい」と残念がった。
92年に始まったシリーズは既に24巻を数える。「まさに続編を書いている途中でした。『続編はうちで』と他社からオファーもあるが、ぜひ草思社の名前で完結させたい」と希望を込めた。
出版関係者は「長引く不況でどの社も出版以外の分野に手を出さざるを得ないが、同社はこの事業拡大が足を引っぱったようだ。実績ある会社の民事再生法適用申請だけに、業界に与えるショックは計り知れない」と分析している。
ZAKZAK 2008/01/11