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チベットに伝わる仏教書翻訳…人類学者・中沢新一さん

「親や社会が何とかしてくれる」は幻想

中沢新一さん(クリックで拡大)

 チベットの民衆や若い僧侶に古くから読み継がれてきた仏教の入門書を中沢新一氏が翻訳した。「鳥の仏教」(新潮社)だ。鸚鵡(オウム)がカッコウや鳩たちに尋ねる真摯な問答。人に言われたらカチンと来そうなことも鳥たちの言葉なら不思議と心にしみてくる。美しい挿絵入りの頁をめくりながら仏教の真髄に触れた気がした。

【拘束条件あると人生がピリッと】

 −−鳥にも心があるとは意外でした

 「鳥だけでなく豚だって牛だって動物には心がある。人間は自分だけ心があると思っているけどそんなことはない。もともと人間の(持っている)条件から解放しようとしているのが宗教。この本は人間のことばかり考えている宗教を人臭さから解放したいんです」

 −−人間のことばかりではいけない

 「エコロジーとしきりに言いますが、人間の環境世界を言ってるだけ。なぜ木を植えるか。そこに鳥が来て動物が憩うから。日本からの二酸化炭素排出削減のためだけというのはあまりに狭量です」

 −−それにしてもなぜ鳥なんでしょう

鳥の仏教(クリックで拡大)

 「チベットでは鳥たちの環境や生存競争が厳しいという認識があるんでしょう。また、キリスト教が魚であるように鳥は仏教を象徴します。鳥には自由で潔いという印象もありますが実際、鳥は拘束条件が大きいから人間のように幻想やありもしない夢を抱くこともない」

 −−鳥の拘束条件?

 「例えば高い所にしか住めない鳥や、ダチョウのように地上で歩く鳥などそれぞれDNAに制御されて狭い領域で完成しているのが鳥の世界。人間の場合は別の領域にどんどん出て行ける自由がある分、『もっとできる』と無理もする。最近の経済犯罪はほとんどそういうことなのでは」

 −−拘束はむしろありがたいもの

 「カフカが死ぬ前に『私に法をくれ』と言ったそうです。社会が法則を壊して人間が好き勝手にやりはじめた20世紀初頭に、それはものすごく不幸をもたらすということを予見したんでしょう。私も昔は無拘束に生きて随分、不幸な体験をしたので拘束を自分に課すようになりました」

 −−どんな拘束を?

 「国内便には乗りません。こないだも小樽まで電車で行った。みんなバカにするけど飛行機はガソリンを食いますしね。自分で設けた拘束条件には自由勝手ではなく別の自由がある。当たり前になっていてもなくたっていいことは結構あるし、他人とは違う拘束条件を自分で決めると人生がピリッとしてきますよ」

 −−鳥から学べることは 「自立です。鳥はまず自分で生きなければならないし、うかうかしてたら殺される。人間の甘えの元は幻想ですが、親や社会、国が何とかしてくれるだろうというその“だろう”も壊れ始めている。からっけつの所から自分で生きていくことの重要性だと思います」

【「鳥の仏教」】

 「苦しみから私たちを解き放つ正しい方法を教えてください」。鸚鵡の問いにカッコウに姿を変えた観音菩薩が答える。この世の無常を生き抜くブッダの智恵を森に集まった鳥たちがそれぞれの立場で歌う。(新潮社、1470円)

ZAKZAK 2009/01/09

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