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音楽の喜び…バイオリニスト&指揮者・田中千香士さん

1月19日、肝不全のため69歳で死去

田中千香士さん

 音楽家はプロとしての実績を積むほどにしがらみが増え、音楽だけに打ち込めず、演奏を「楽しむ」機会が消えていくという。そんななか、「音楽の喜びを純粋に楽しもう」と、プロがノーギャラで演奏するという前例のないコンサートを開いたのが田中さんだ。

 所属楽団の垣根を越え、ソリストまでもオーケストラに参加。「ユーモアあふれる人柄と求心力のある田中先生でなければ企画できなかった」と関係者は舌を巻いた。

 1939年、東京生まれ。パリ国立高等音楽院を1等首席で卒業。66年、史上最年少でNHK交響楽団コンサートマスターに就任(79年まで)。後進の指導に熱心で、東京芸術大教授、名古屋音楽大学長として実践主義を貫いた。「音楽家はどんどん人前で演奏するべき」と、積極的に演奏会を企画する姿勢が多くの学生に慕われた。

 音楽を純粋に楽しむ「ちかしコンサート」は昨年1月、都内で第1回が開かれ、田中さんはベートーベンの交響曲「運命」「田園」のタクトを振った。コンサートマスターを務めた新日本フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターの豊嶋泰嗣さん(44)は「最高の演奏で大成功でした。プロがノーギャラで演奏する会など他になく、『当日は都合がつかないが、練習だけでも一緒にやりたい』という人がいたほど」と振り返る。

 その後すぐに、今年2月の第2回開催に向けて準備が進められた。しかし、田中さんは肝臓の持病が悪化して年明けに入院。昏睡状態に陥った後、一時的に意識が戻るとコンサートのスコアを取り寄せ、「もう一度、指揮台へ」と意欲を燃やしたが、19日、願いはかなわず息を引き取った。

 コンサートは中止するしかないのか−。豊嶋さんはこう語る。

 「先生が亡くなり、だからコンサートをやらないというのは、先生が一番悲しまれると思う。だから指揮者なしでコンサートを開くことにしました。実際に指揮者はいませんが、でも先生は指揮台にいるのだ、と想像して…」

 「ちかしオーケストラコンサートVol.2」は2月2日、東京・紀尾井町の紀尾井ホールで開かれる。曲目はメンデルスゾーンの交響曲「イタリア」「スコットランド」で、午後7時開演、全席自由(4000円)。プロの音楽家たちが音楽への情熱、そして田中さんへの思いを込めて演奏に臨む。

ZAKZAK 2009/01/30

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